585.魔力砲の罠
そのころ、セバクターたちは全部で五階層ある地下への道を進む。
ようやく地下四階を超えて最下層の五階へとやってきたわけなのだが、そこは茶色の石造りの壁が特徴的でかなり入り組んだ迷路のような場所になっていた。
しかもそれだけではなく、恐ろしく薄暗いのもあってなかなか進めなかったものの、ドラゴンたちの案内によってこうしてその迷路を抜けて魔力砲のある部屋までたどり着くことができた。
そしてその部屋……黒光りしている重厚な両開きのドアの一部をグラルバルトが指差す。
「ここがそうなの?」
『ああ、ここに私が持っているこのペンダントをまずはめ込むんだ』
そのままでは封印がかかっているため開けられない。
そこで出番となるのは、七匹のドラゴンたちのサブリーダーとして活動しているグラルバルトが持っている、ゼッザオの国宝であるペンダントだった。
それを首から外して、グラルバルト自身が指差す部分の凹みにはめ込んでみると、鍵が開くにしては何だかガチャッと重厚な音が響いた。
『よし、これでここの鍵が開いたぞ』
『今度は誰かが……そうだな、エリアスに頼もうか。そなたが中に入ってそのペンダントを魔力砲にはめこむんだ。そうすれば某たちの最終兵器が発動できる!』
「わかった!!」
アサドールとセルフォンに促され、エリアスが先頭で魔力砲のある部屋の中に入る一行。
その中にあったものは、三階建ての家に匹敵するぐらいの高さに中肉中背の人間が三十人ほど横に並んで同じぐらいの横幅を持っている、今しがた開いたドアに負けず劣らずの黒光りをしている巨大な砲台が不気味に鎮座していた。
「で、でかい……」
「確かにこれなら最終兵器って言われても違和感がないな」
エリアスもセバクターも唖然とするその大きさだが、その一方でグラルバルトは先ほどからずっと考え込む素振りを見せている。
それに気がついたエリアスが声をかけた。
「……どうしんだ?」
『いや……この最下層に入ってからなんだがな。やけに静かすぎるのではないかと気になってな』
今まで地下四階までずっと色々な敵と戦ってきた上に、先ほど上でルギーレたちと合流する前に一度地下への道に出てくる敵たちをせん滅していたこともあって、地下五階では敵の数が全くといっていいほどになかった。
だが、それこそがグラルバルトの気になるところなのだという。
『先ほどから探査魔術でこの階層全てを探ってみてもわかるのだが、敵の数が少なすぎるのが逆に不自然だというのだ。この最下層にこんな大層なものが置いてあるとニルスやディルクもわかっているのであれば、何としてでも封印を解いて破壊していただろうし、そもそもここに部外者が来ることを見越して警備を厳重にしておくべきなのではないかと思う』
「それはまあ……確かにそうだな」
言うなればここが最終防衛場所となるので、確かにただ単に獣人たちを出すだけとは比にもならないほどの激しい敵の抵抗があったとしても不思議ではない。
セバクターも彼の意見に賛同する一方で、エリアスたちは魔力砲の封印を解くべくベンダントを窪みにはめ込んだ……その時。
『……!?』
「な、なんだぁ!?」
突如鳴り響く、ビーッビーッビーッという警報の音。
この階層……いや、この地下全体に鳴り響いているのかもしれないその警報だが、こんな警報はドラゴンたちも知らないのだという。
『何だこれは!?』
『わからん……だが吾輩たちの知っているものではないぞ!!』
『ということはもしかすると、ニルスかディルクがこの警報を設置したとでもいうのか!?』
そうだ、あの師弟たちはこの部屋に入ることだってできるはずだ。つまり何かしらの罠を仕掛けていてもおかしくはない。
ここでようやくそのことに気がつき始めた一行だったが、この最下層に敵の姿が少ない理由が一体どうしてだったのかということを、その次に聞こえてきた声によって全員が知ることとなる。
『自爆装置作動。魔力砲の自爆装置が何者かによって起動されました。地下にいる人員は全員地上に出て避難してください。繰り返します。自爆装置作動……』
「じ……自爆装置!?」
「ちょっと、自爆装置ってこの魔力砲もろとも地下を吹っ飛ばすってことなの!?」
『ありえない話ではないな。魔力砲の中に溜めに溜めた魔力が一気に爆発すれば、それだけでこの地下階層は一気に吹き飛ぶぞ!!』
セバクターとエリアスに対してグラルバルトが焦った表情でそう分析するが、それよりも今は逃げるのが先決である。
聞こえてくる声によれば魔力砲の自爆装置が発動するまで残り五分しかないようで、それならばとグラルバルトは他の全員をこちらに案内することにした。
『私についてこい!! こちらにもう一つの出入り口に繋がる通路がある!!』
普通に階段を上って避難していたのではとても間に合わない。
ここはドラゴンたちのサブリーダーでもあるグラルバルトに全てを任せ、一行は自爆に巻き込まれないように全速力で走り始めた。




