581.帰還と決意
ということは、ここは……。
「あれ、俺ってヘルヴァナールに戻ってきたのか?」
『戻ってきた? 君は一体今までどこにいたんだよ? ……それにその右手の剣って……!?』
驚きの連続で興奮を隠しきれないシュヴィリスだが、とりあえずお互いにいろいろと説明してもらわなければわからないことだらけのようなので、ルギーレはシュヴィリスと歩きながら他のメンバーたちがいる場所へと連れていってもらうことにした。
そしてメンバーたちと合流したことによって、離れ離れになっていたお互いの今までの経緯が判明することになるのであった。
「……じゃあ、ここはそのゼッザオの王都にそびえ立っている大木の城の中だってのか」
『そうだ。しかしまさか、その精霊がエターナルソードを持ち出していたとは……』
そりゃ見つからないわけだ、と地下から合流したアサドールが納得した表情で呟く。
しかしこうして、結果的にエターナルソードはルギーレの手の中にあるのだからやるべきことはやったということになる。
地下の制圧はひとまず終わったといえば終わったのだが、まだこの大木城のあらゆる場所に存在している異次元の黒い穴から次々に獣人たちの侵入を許してしまっているようだ。
『今のところ、私たちにはその穴という穴を塞ぐ手立てはない。となればその穴を創り出した元凶を倒すしかないだろうな』
「そうだな。僕もセバクターも同じ意見だ」
この大木城の上まで上りきらなければ、きっとニルスもディルクも見つからないだろう。
ルギーレが戻ってきた場所はどうやら百階ある大木城の七十階の少し手前らしいので、残りはまだ長いようである。
とはいえ、せっかくここまでやってきたのだし気力を振り絞って上っていくしかないのだ……。
それを実感したメンバーの内、シュヴィリスは少しでも先の長さから気を紛らわせるためにここで話題を変えてみることにする。
『ところでさぁ、僕がさっきルギーレと合流する前に見つけた書類があったんだよ。その内容がちょっと気になるものだったんだけどね』
「どんなものだ?」
『えっと……それがさあ、こっちの世界の言語で書かれていないから僕も全部は読み取れなかったんだけど、絵が描いてあってそれで少しはわかった感じでさ』
シュヴィリスがそう言いながら懐から取り出した紙の束を、彼と一緒に読んでみるセバクター。
そこにはこの世界を根底から変えてしまうような内容が書かれているみたいだった。
「……これは獣人たちの間で使われている独自の言葉だな。だから俺にもわからないが……この絵の内容をつなげていくと、どうやらこの世界を獣人たちで溢れさせるみたいだな」
『かもね。多分これは、字が読めない獣人たちのために絵を使って説明するっていう目的もあるんだろうけど、それで僕たちにも内容がある程度わかっちゃうんだから滑稽だよねえ』
シュヴィリスとセバクターが目にした内容は、まずこの世界を荒らし回ってほぼ焦土化する。
そして異世界から次々に獣人たちを送り込み、新たな世界をこの世界に創り出す……というものらしい。
一言で言ってしまえば、異世界からの侵略者たちによるヘルヴァナール征服計画がニルスとディルクたちの目的だったらしい。
「ということは結局、勇者パーティーの勇者たちもニルスとディルクにうまく利用されていたってことなのか?」
『かもね。恐らくは自分についてくれば獣人たちを使役させるリーダーにさせてやるみたいなことを言っていたのかもしれないけど、真相は上にいるであろうその二人に聞いてみないとわからないだろうね』
「同感だ」
獣人たちを使ってニルスとディルクはこの世界を征服しようとしているのかもしれないが、そんなことは自分たちが絶対に許さない。
その気持ちを胸にしながら更に上の階へと上っていくメンバーたちは、再び現れる多数の獣人たちを分散して倒しながら進んでいく。
しかしその中で、ルギーレは妙に強い狼男に苦戦していた。
「くっそおおおおお!!」
「ふはははは、俺はこっちだぜ!!」
挑発的な言葉でルギーレを煽りながら、相変わらずのすばしっこい動きでルギーレに攻撃を仕掛けてくる狼獣人。
今のところはルギーレは全然攻撃を当てられていないものの、だからといってここで諦めるわけにはいかない。
しかしどうすればうまく攻撃を当てられるのだろうか……と考えつつ戦っていたルギーレの元に、何の前触れもなしにファイヤーボールが飛んできたのはその時だった。
「ギャウウウッ!?」
「え……?」
目の前で走り回りながら飛びかかってこようとしていた狼獣人の身体が、一瞬にして燃え上がった。
ぎゃあああと叫びながら地面をのたうち回ってその炎を消しにかかる狼獣人だが、当然ルギーレにとっては大きな攻撃の機会となる。
「しゃおらあ!!」
「ウガッ!?」
身が裂かれるような熱さに悶え苦しんでいた狼獣人は、振り下ろされたルギーレのレイグラードの餌食となって胴体を斬り潰されて絶命した。
これでようやく長く感じたこの戦いにも終止符が打たれることとなったのだが、一体誰があんなファイヤーボールを……?
「ふう、危機一髪ね」
「ルディア!!」
そう考えていたルギーレに声をかけてきたのは、一緒に旅路に付き合ってくれているルディアだった。
どうやら先ほどのファイヤーボールは彼女が飛ばしてくれたものらしいが、それがなければ自分は次第に追い詰められて殺されていただろう……とルギーレは仲間の大切さを改めて実感しながら礼を言う。
「助かったぜ……そっちは大丈夫だったか?」
「うん。でも倒しても倒しても無限に出てくるみたいだから、いちいち相手にしないでさっさと進みましょう」
「そうだな」
この先の階層に何が待ち受けているかはわからないが、今の自分たちはそれでも進むしかないのだ。
だがそんな上に向かうメンバーたちの前に、七十階で恐ろしい敵が待ち受けていたのである。




