56.連中の居場所
その日は子供たちと遊んで夕食もごちそうになり、空いている部屋に泊まらせてもらうことになった二人。
だが、受けた依頼の内容について話し合いもしなければならなかった。
「あー……何か面倒なことになっちまったなぁ。そいつら見かけたら絶対に全員地べたを舐めさせてやる!」
「全くよね。勇者パーティーを追放されたのはあなたの実力不足だったのは間違いないけど、それをダシにして勝手な賭けをして大損して、挙句の果てに孤児院まで乗り込んでくるなんて、逆恨みもいいところよね」
もう少し詳しく話を聞いてみると、徐々にその全貌が明らかになった。
勇者パーティー関連で賭けをして、大損をこいてしまった連中がルギーレの孤児院を特定。腹いせにシスターや子供たちに暴力をふるっただけでなく、窓ガラスを割ったり壁や屋根を壊したりと、あのボロボロになっている状況はそのタチの悪い連中が作り出したものだったということだったのだ。
そんな面倒くさい連中を倒しに行かなければならないルギーレは、逆恨みするなら自分の中だけでやってくれと言いに行くつもりである。
「決して人に迷惑をかけねえで、何か別の賭けとかすりゃあいいのによ。今回の件は許せねえからそいつら全員ぶちのめしてやんぜ!」
「私も同じ意見よ。ルギーレはあそこで育ったってだけで、関係のない職員の人や子供たちに危害を加えるなんてのは許されないことだわ」
そういえば、孤児院が襲撃された時に騎士団の人間たちは動いてくれなかったのだろうか?
そんな事件があれば真っ先に動いてくれるはずなのに。
しかもここは帝都なのだし、武人国家と呼ばれているだけあってこうした荒事には非常に対応が早いことでも知られている。
なのにどうして、シスターや子供たちを騎士団が救ってくれなかったのだろうか?
そこにはこんな事情があった。
「行方がわからない?」
「ええ……騎士団の人たちもそのタチの悪い連中を探してくれているらしいんだけど、どうもその連中は根なし草らしいのよ。それで全然行方が特定できないみたいなの」
「何かその連中に目印になるものはなかったんですか? 例えば全員似たような服装をしていたとか、言葉に訛りがあったとか、何かヒントになりそうなものは……」
だが、ルディアの質問も無意味だったらしくシスターは首を横に振った。
「全然わからないわ。共通点といえば……その連中は正体を知られたくないのか、顔も頭も全部布で覆い隠していたの。だから声もくぐもって聞こえていたし、何より私たちは子供たちを守ることで精一杯だったから訛りがあったかどうかも覚えていないのよ」
「そう、か……」
服装も全員バラバラで、貴族みたいな格好をしている者から浮浪者のようないでたちの者までまさに千差万別だった。
子供たちを守るのに必死だった状況では、そのいきなり乗り込んできた連中の人数も把握できなかったので、手がかりはもはやゼロに等しい。
「使っている武器もバラバラだったらしいし、魔術が使える人間もいたらしいからこれは相当な大所帯かもな」
「でも孤児院を襲撃するんだったら少ない人数の方がいいのかもしれないし……見間違いとか勘違いで同じ人をカウントしちゃったってこともありえるわ」
すでにこうして、二人の間で意見の食い違いが出てしまっているのでかなりの難事件だ。
実際に孤児院を襲撃したことなんてもちろんない二人には、その連中の手がかりがない状況では足取りを追うこともままならなかった。
そもそも騎士団の人間たちが足取りを追えていないのだから、かなり無理がある依頼を引き受けてしまったらしい。
だったらどうやってその連中を探し出せば良いのか?
「シスターたちが知らないんだったら私たちも知らないわけだし……知らないこと……ん? 知らないこと?」
「え?」
「ああ、そうか。知らないことなら知っている人に聞けばいいのか!」
ポンと右手の拳で左手の腹を打ち、何かをひらめいたルディア。
その仕草に、もしかして解決策を思いついたのか? とルギーレは問いかける。
「もしかしたらいけるかもしれないわ。誰も何も知らないんだったらさぁ……あの人に頼んでみるしかなさそうね」
「あの人?」
「ええ。いるじゃない一人。何でも知っているあの人が」
その人間だったらきっと、逃げて行った連中の居場所もわかるはずだ。
ルディアはその人物が知っているかもしれない可能性に賭けてみることにしたのだ。
そして翌日、その人物の話を聞いて納得したルギーレを連れてルディアがやってきたのは、以前も来たことがある建物の前であった。




