579.精霊を倒すには
「おい、どうしてあんたがエターナルソードを持ってんだよ? それでディルクとニルスのヤローどもに加担しよーって魂胆かよ!?」
『さっきからそう言っているじゃないか。我は楽しいことが好きなのでね。エターナルソードだってこちらの世界の人間たちがちょいちょいと保管場所をいじってやったら、すぐに持ち出すことができたからね』
まるでナスティアが悪役になってしまっている。
……悪役?
もしかして……とルギーレは一筋の希望の光を信じてナスティアに聞いてみる。
「あ、わかったぞ。これもあれだろ……あんたが俺とセバクターにやらせた試練とかいう戦いだろ!! そうじゃなかったら、ものすごくくだらない理由をつけてこーやって俺に襲いかかって来ねえだろうしな?」
わずかな希望を胸にそう聞いてみるルギーレだが、ナスティアからの反応は非常に冷ややかなものだった。
『貴様、我を馬鹿にしているのか?』
「はっ?」
再び衝撃波が襲い来る。それも先ほどよりも大きなものだ。
「うぐっ……!!」
『試練はとうの昔に終わったことだろうが。それに我はこれが試練などとは一言も言っていないのだがな』
「くっ……じゃあ俺と戦おうってさっきの話は、あんた本気で俺を殺すって……ことかよ!?」
『そうじゃなければ、そなたにこんな攻撃などせんわ!!』
ナスティアは先ほどまでと違い、空中浮遊したまま一気にルギーレへと肉迫する。
そのまま空中から恐ろしく鋭い突き込みを、まるでレイピア使いのように連続で繰り出してくることからわかる通り、どうやら接近戦闘に関してもレイグラード使いのルギーレに挑むだけの技量を持っているらしい。
それを後ろに下がりながらレイグラードで弾くルギーレだが、このまま真っ向勝負では自分に分が悪いと判断する。
かといって、エターナルソードという非常に強力で凶悪で危険な武器を持っているこの精霊の相手をこれ以上続けるのはかなり厳しいので、できれば短期決着に持ち込みたいところである。
(何かないか……何かが!?)
大きくバックステップで距離をとっても、ナスティアはすぐに追ってくる。
この状況を打破するには、やられっ放しの現状からどうにかしてやり返さなければいけないのだが、それを可能にするための設備や道具といえば……。
(……ん!?)
ナスティアの攻撃の隙を見て、ルギーレは勝機を見出せそうなものを二つ見つけた。
相手は自分を攻撃するのに夢中になっているようだが、それを利用して何とかこの二つを使ってナスティアを倒せないかを考えてみる。
『ほらほらあ、防戦一方では我には勝てないぞ人間よ!!』
(わーってんだよ、んなことよぉ!!)
だから今からあんたを倒すために俺が動くんだろーが、と心の中で独白するルギーレは、早速その作戦を実行するべく部屋の隅へと移動する。
当然、ルギーレを追いかけてナスティアも追いすがってくるので、追いかけられるルギーレは彼の動きと自分の作戦をうまく融合させて倒すべく作戦を練る。
「ふっ、はっ、くらえっ!!」
『甘い甘い!!』
剣術だけ見てもルギーレよりもナスティアの方が上らしく、必死に攻撃してもその言葉通り余裕で見切られ、かわされ、防御され、反撃される。
だからこそ、そのルギーレの連続攻撃は誘導であり、勝負できる場所までジリジリと誘い込むために必要なことなのだった。
「おらっ!!」
『……っ!?』
ルギーレは再びバックステップ。
それを追いかけるナスティアだったが、突然目の前に黒い縦長の大きな物体が姿を見せる。
ルギーレを追いかけることに夢中になり過ぎていたせいで、ナスティアは突然現れたその物体を避けることができずにそのまま突っ込んでしまった。
『ごふっ!?』
「立てオラァ!! 立て、オラァァ!!」
同じ言葉を繰り返したルギーレは、今しがた自分が思いっきり閉めてナスティアにぶつけて地上に落とすことに成功した出入り口のドアを使い、更にダメージを与えるべく行動する。
あえてレイグラードを一度捨ててからナスティアの胸ぐらを掴んで引っ張り起こし、そのドアと壁の間にナスティアの頭を何度も挟み込むことによって、意識を朦朧とさせる状況にまで追い込むことに成功した。
だが、ナスティアの頭部から大量の出血が始まったとしてもまだ戦いは終わっていない。
ルギーレはさらにナスティアを追い詰めるべく、前蹴りを使って部屋の中央まで吹っ飛ばしてから再びレイグラードを握りしめて、今までよりも大きな衝撃波を繰り出した。
だが、その衝撃波はナスティアを倒すために使用されたものの、狙ったのはナスティアではなくその上にあるヒビ割れた石造りの天井だった。




