577.ヘルヴァナールの聖剣
『エターナルソードがなくなっているんだ!!』
「えっ、どういうことですか?」
ゼッザオの国宝であり、七匹のドラゴン全ての魔力を込めて創られたという最強のロングソードであるエターナルソード。それが、本来あるはずの地下の部屋から忽然と姿を消してしまっているというのだ。
『エターナルソードがなくなってしまっては、ディルクやニルスには対抗できないかもしれないぞ!!』
「そんな他人事みたいに言わないでくださいよグラルバルトさん!! と……とにかくエターナルソードを探さないといけないじゃないですか!!」
魔晶石の向こうでエリアスから通信相手を代わってもらったグラルバルトに、やや苛立ちを覚えながらそういうルディア。
しかし、もっともな彼女の言い分にグラルバルトは驚きのことを言い出したのだ。
『それが……どこかに持ち出された形跡が見当たらないんだ』
「はい?」
『地下にはエターナルソードを保管しておく宝物庫があってな。そこからどこかにエターナルソードが持ち出されたとなれば、エターナルソードを護っているはずの結界が消えているか壊されているかになるのだが……』
そのどちらも形跡がない。
となれば、エターナルソードが自分で勝手に動いたかその結界を抜けずに消え去ってしまったという、非常に不可解な出来事が起こっているということになってしまう。
一体何が起こっているのかグラルバルトたちにもわからないというのだが、消えてしまった時の状況に繋がるであろう手がかりだけは残っているらしい。
それを、グラルバルトから通信相手を代わってもらったアサドールが分析する。
『侵入者と思わしき存在の残滓が残っていた』
「残滓ですか?」
『そうだ。魔力の残滓なんだが……どうやらこれは人間のものではなく、精霊の残滓らしいな……』
「えっ……」
ここにきていきなりアサドールの口から出てきた「精霊」という種族の単語。
それを聞いてルディアの頭の中に真っ先に思い浮かんだのは、以前出会ったことのあるあの精霊のことだった。
「あの……それってまさかカンバジール遺跡でルギーレたちが出会ったって言っていた、ナスティアって男性の精霊ではないでしょうか?」
『可能性としてはそれもあるかもしれんが、今の時点では残滓が弱すぎて特定まではできない』
しかし、そのエターナルソードがなくなってしまっている場所に精霊の残滓が残っていること自体は紛れもない事実なのである。
そのルディアと地下のメンバーたちとの会話はセバクターたちにも聞こえるように魔晶石から音の出る場所を設定しているため、セバクターがルギーレとの戦いのことを思い出していた。
「そういえばそんな精霊がいたな。やたら強引で困ったもんだった。俺とルギーレを戦わせて一体何がしたかったんだ?」
『試練だとかって言ってたんだっけ。まあ、結果的に僕たちがここにくるきっかけにはなったってことでしょ』
本当に、あの時は何なんだろうな……とうんざりしていた感情を隠しきれないセバクター。
しかし、エターナルソードがなくなったのが仮にそのナスティアという精霊の仕業だとしたら、倒さなければならない敵がまた増えてしまったようである。
だが、だからといってエターナルソードがどこに行ってしまったのかをここにいるメンバーの誰もが知る由もない。エターナルソードの魔力がこの大木城の中からは感じられないからだ。
「ルギーレの行方もわからないままですし、どんどんわからないことが増えていきますね……」
『仕方ねえだろ。俺様たちはそれでも上に向かうしかねえし、下にいる奴らはエターナルソードを探してもらうしかねえ』
それしか今のところ、俺様たちにできることがねえんだからよとエルヴェダーが言うのに、他のメンバーたちも同意するしかなかった。
ニルスやディルクのこと、異世界に行ってしまったかもしれないルギーレのこと、エターナルソードのこと、そして精霊のこと。
怒涛のように考えなければならないことが多すぎて、全員の頭が混乱するのも無理はないのだが、それでも一つずつ問題を片付けるべく行動していくしかないのである。
『とにかく私たちは下を引き続き制圧しにかかる。どうやら地下にも多数の獣人たちが流れ込んできているらしいからな』
「わかりました。では私たちは上に向かいますので、お互いに気をつけましょう!!」
魔晶石の向こうで再び通信相手を交代してもらったグラルバルト、そしてルディアは自分たちがなすべきことをやり遂げるべくお互いに気合いを入れて再び進み始める。
だが、それとはまた別の世界においては行方不明になっている彼が大いなる危機に見舞われているのであった。




