574.乗っ取られた大木城
アサドールがエリアスの風貌にやや引き気味になっているそのころ、五十階の展望台から強行突入を果たしていたセバクターたちの方は、ただひたすらに上を目指して進んでいた。
さすがに五十階部分から突入したとはいえ、残りも五十階あるのでまだまだ上に敵が待ち受けているこの状況では、次第にセバクターたちの身体にも疲労が蓄積していく。
「ふぅ……ふぅ……さすがに五十階も上がるとなるとかなりきついですね……」
「そうだな……」
魔術師として体力的に厳しい部類にあるルディアは当たり前だとして、普段から騎士団で鍛えているセバクターも、階段を使って五十階分を上るのだけでもなかなかに厳しいものがある。
さらにそこに、各階で待ち受けている敵を倒しながら進んでいかなければならないという事情も加わって体力面での厳しさに拍車をかけていた。
『少し休憩しよう。疲労を溜めながら進むのは危険だ』
『賛成だ』
タリヴァルの提案にセバクターも賛成し、六十階部分まで上がってきたところで敵を倒してから休憩することにした一行。
敵の攻勢がなかなか激しさを増しているこの状況では、休息も立派な戦術の一つである。
『怪我は魔術で治療できるけど、疲労はどうしても身体そのものの問題だからねえ』
『全くだぜ。こればっかりは俺様たちだって人間たちと同じだからな』
シュヴィリスもエルヴェダーも、この大木城を自分の足でこうして上ったのは実に何年ぶりだろうかと苦笑いをこぼす。
普段は翼に頼って上下移動をしているだけあって、こうして人間の姿で行動することはあっても、階段を使って上り下りするのは実は余りなかったりするのだ。
だからこそドラゴンたちもなかなか体力的に厳しさを感じ始めている一方で、この六十階のいろいろな場所を探索してみることにした。
『この階はなかなか広いから、ちょっと歩いてみねえか?』
「えー、これから歩くの?」
『もちろんもう少し休んでからだよ。ここの階の敵は全部倒したし、なかなか広いってことは何かが見つかるかもしれねえだろ?』
エルヴェダーのその提案も一理ある。
しかしここでセバクターがふと考えたのが、ここがゼッザオの総本部なのであるならば内部構造をこのドラゴンたちがもっと知っていてもいいのではないかということだった。
それについて尋ねてみると、人間の姿になっているドラゴンたちは揃いも揃って困惑した表情を見せている。
『あー……まあ、それは確かにそうなんだけどよぉ、どーにも俺様たちが霧の外でいろいろとやり合っている時に、そのニルスとかディルクっていう奴らに改造されちまったみてえだ』
『僕もまさかと思ったけど、使われていなかった部屋まで使われているみたいで頭がこんがらがってきてるんだよね』
『ああ。黒いドラゴンの協力や案内があってこんなことになっているんじゃないかというのは予想がつくんだが、それ以上は何ともいえないな』
どうやら今のこの大木城の内部は、ドラゴンたちの知っている大木城ではなくなってしまっているらしい。
というわけで少し休んでからセバクターたちが六十階を探索してみることにしたのだが、その結果はとんでもない記述がされている紙の束を発見した。
『違う世界への渡り方……?』
「また違う世界かよ。一体どんな世界なんだ?」
その書類の束に書かれている文字を読み上げるタリヴァルに続き、ややうんざりした様子でセバクターが呟いた。
だが、グラルバルト以上にタリヴァルはその違う世界に関しての話をその昔、黒いドラゴンから聞いたことがあるなどという、衝撃的な話を始めたのだ。
「何だと? あんたは違う世界への行き方を知っているのか!?」
『そういうわけではない。だが、これはイークヴェスから聞いた話だから間違っていないと思う』
「イークヴェス?」
聞いたことのない名前が出てきて困惑するセバクターだが、すぐさまタリヴァルはその名前の説明も含めて話を続ける。
『イークヴェスは黒いドラゴンの名前だ。そして我はそのイークヴェスから、このヘルヴァナールという世界とはまた違ったもう一つの世界があるのだと聞かされたことがあったんだ』
「それは実に興味深い話ですね。まさかそれって、ルギーレが吸い込まれてしまったっていう黒い穴の話と関係があったりするんじゃないでしょうね?」
魔術師でもあるルディアが興味津々といった様子で食いついてくるが、タリヴァルは動揺せずに書類の束をめくりながら話を続けることにした。




