571.屋上に向かって
この世界に来る前……エンヴィルーク・アンフェレイアにいる時から使っている愛用のロングソード。
それを両手でしっかりと握りしめたセバクターは、バッサバッサと位置を調整しながら窓ガラスに近づいていくエルヴェダーの作戦を実行するべく、身構えてその爆弾を振りかぶった。
『よーし……ぶっ飛べえええっ!!』
エルヴェダーの声とともに大きく跳躍したセバクターが、振りかぶったそのロングソードは弧を描いて窓ガラスに向かっていく。
その軌道を目にしたエルヴェダーが大きく息を吸い込み、空気が揺れて視界が霞むほどの灼熱のブレスを窓に向かって吹き付ける。
そのブレスは窓ガラスをじりじりと焦がしていく。
『さぁ、いけえ!!』
「よし……ファイナルカイザースラッシャああああああああああああっ!!」
炎への耐性を持っている赤いドラゴンと、セバクターが魔力を最大限まで込めた必殺技を叫びながら炎の中に突っ込んだその瞬間、ドガシャバリーンと激しくガラスが割れる音がして大木城のの中にその赤いドラゴンの身体が突っ込んで行った。
セバクターは突っ込んだ先の展望台に飛んで地面を転がり着地する。
何とかこれで強行突入には成功したのだが、これだけ派手な音を立てるだけの突入に敵が気づかないわけがなかった。
「来たな……」
『わかった上で俺様たちは飛び込んだんだ。それにこっちには俺様たちだけじゃなくて、まだ二匹のドラゴンと背中に乗っている人間たちがいるんだからな』
この姿では動きづらいので人間の姿になったエルヴェダーが後ろを振り返れば、そこにはファイナルカイザースラッシャーの爆発で破られた大きな窓に向かって飛び込んでくる青いドラゴンと、ルディアを乗せた白いドラゴンの姿があった。
その二匹も着陸後は人間の姿に変化して、ゾロゾロと展望台の上の階や下の階から現れる敵たちを倒しにかかる。
円形状の空間は、中央のくり抜かれている空間に大木の幹をそのまま通している構造となっているものの、その幹をよじ登っていけるような簡単なものではなかった。
幹をしっかりと固定するためなのか、幹に沿って天井がくっつくようになっているので、移動するためには普通に今の敵たちが出てきている階段を使うしかなさそうだった。
一気に頂上まで行っても良かったのだが、それをしてしまうとニルスやディルクが何かをする可能性もあったので、行けそうで行けないのがもどかしいところである。
『俺様たちはとにかく上を目指すだけだ。下は下の連中に任せるとしよう』
『そうだな。我らはニルスやディルクを止めるためにこうやって手荒なことをしているのだからな』
とりあえず、まずはやってくる敵たちを始末していく一行。
ここに出てくる敵たちは余り今までの敵たちと変わらないようであり、ゼッザオという未踏の地に来たからと言って何も恐れることはない。
しかしある程度敵たちを倒して攻勢がやんだところで、一緒に突入した人間二人の中でルディアがドラゴンたちに向けて質問をする。
「その前に一つお聞きしてもよろしいですか?」
『何だ?』
「ここは丁度大木城の中間部分だとおっしゃっていましたが、階数にするとここを含めて全部でどれぐらいあるのです?」
その質問に対して、バトルアックスを振り回していたシュヴィリスがふーっと一息つきながら静かに答える。
『……だよ』
「え? すみません、よく聞こえませんでした」
『だから、ここは全部で百階建てだよ』
「ひゃ、百……」
そう言われてみると確かにそれぐらいの階数があるのはうなずける。
となると、ここがちょうど中間地点だということで五十階部分に当てはまるらしい。
「上がるのも下りるのもきつそうだな、それは」
「全くですね」
セバクターとルディアがうんざりしたような口調でうんうんとうなずくが、何にしても上がらないことにはニルスやディルクにたどり着けないだろう。
そして、シュヴィリスがそれに追い打ちをかけるかのように絶望的なことを言い出した。
『本当なら昇降機が動いているはずなんだよ』
「えっ、そんなのがあるのか!? じゃあそれに乗って……」
『だからぁ、動いているはずだって言ってるじゃん。今は動いていないんだよ』
「えー……」
シュヴィリスいわく、本来この中心部を突き抜けている大木の幹の中に昇降機を設置してあり、それで見学者たちの移動を楽にしているのだという。
しかし、今はニルスやディルクの仕業なのか昇降機が動いていない状況であり、自分たちの足だけを頼りにして移動するしかないのだった。
『本来ならほら……ここに両開きの扉があるんだよ。ここを開けて乗り込める昇降機があるんだけど、残念ながら今はお預けだね』
「ふう……こうなったら敵をせん滅しながら進むしかなさそうだな」
セバクターの呟きに他のメンバーたちもうなずくしかなかった。
きっとこの長い長い階段を登り切った先に、ニルスやディルクがいるはずだと信じて……。




