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55.クーレイリッヒ孤児院

 久しぶりに帰ってきたクーレイリッヒ孤児院。

 名前の通り、あの伝説の冒険者であるルヴィバー・クーレイリッヒが建てた孤児院のうちの一つがここである。

 彼は世界中に孤児院を建設し、孤児となってしまった子供たちが少しでも快適に暮らせるようにと願っていたらしい。

 そのうちの一つで育ったルギーレたちが、まさか勇者パーティーとして世界を巡ることになろうとは誰が想像しただろうか?

 そしてその勇者パーティーから追放されてしまった人間が、まさかこんな形で帰ってくるなどとはこの孤児院の誰が想像しているだろうか?


「あら? ルギーレ?」

「ルギーレお兄ちゃんだ!! みんな、ルギーレお兄ちゃんが帰ってきたよ!!」

「ルギーレ兄ちゃーん!!」


 しかし、ルディアとルギーレの二人がイメージしていた展開はまるで違った。

 笑みを浮かべてルギーレに駆け寄ってくる多数の子供たち。それから職員のシスター。

 それは勇者パーティーの人間としてではなく、一人の人間ルギーレとして彼を見てくれている証拠だったのだ。


「ルギーレお兄ちゃん、鬼ごっこしよう!」

「えー、かくれんぼがいいー!!」

「ああ、後で遊んでやるよ。というわけでシスター、帰ってきたぜ。みんなも少しは成長したみたいだな」

「当たり前でしょ。それでその……パーティーはどうなの?」

「まぁそこそこ。でもさ、こっちはちょっとボロくなってねぇか?」

「あー……」


 てっきり自分がパーティーから外されているのを知られていると思っていたルギーレだが、どうやらその心配は杞憂に終わったようだ。

 しかし、ルギーレの指摘にシスターは表情を曇らせる。

 ルディアもそのやり取りを聞いて建物に目を向ければ、外装は剥がれ落ちている箇所が所々そのままになっているし、庭は一応手入れされているみたいだが細かい所まで管理が行き届いていないのか、雑草が伸び放題の場所もある。

 それから窓も割れて隙間風が入っているし、屋根も何だか朽ちかけているみたいだ。

 この状況を見たルディアは、ルギーレにそっと耳打ちする。


「ねぇ……あなたって、この孤児院にお金を送ってあげてたりしなかったの?」

「やってたよ。というか俺とベティーナとマリユスが一緒の孤児院出身だってのは話しただろ? だから、依頼で得た何割かの金をこっちに回してたんだよ」


 なのにこのありさま。

 もしかすると、適切な場所にそのお金が使われていないのではないか? もしくはお金を送っても食べさせるのにいっぱいいっぱいで足りていないのではないか?

 ルディアが心の中でそう思っているのだが、実際の理由はもっと壮絶なものだった。


「いやあのね、ルギーレ……実はお金を送ってくれてたのは知ってるんだけど、ちょっと問題が発生していてね」

「問題って何だ?」

「それがねえ……ちょっと前から言いがかりをつけられているのよ。ちょっと悪質なのにね」

「言いがかり?」


 何か嫌な予感がする。

 そう考えたルギーレに、シスターは彼の表情が凍り付く一言からその詳細を話し始めた。


「あなた……パーティーを追放されたんでしょ?」

「……んえ?」

「言わなくてももう知ってるわよ、この孤児院の全員が。だってそのタチの悪い連中がそう言ってたんだから」


 子供たちの姿が周りにいなくなってからそう言い始めたシスターだが、それ以上にショックなのはルギーレだった。

 俺が追放されてしまったのが孤児院にバレている? しかも全員知っている? そのタチの悪い連中って一体何なんだ?

 頭の中がパニックになってしまって上手く言葉が出ないルギーレに代わり、ルディアが話の続きを促す。


「あ、あの……それってどういうことなんですか?」

「裏の世界の連中らしいのよ。賭けをしていたんだって」

「賭け?」

「そうなの。勇者パーティーがどこまで勝ち続けられるのか。どこまでこの世の平和を守れるのかって自分勝手な賭けをしてたらしいんだけど、そのうちの一人がパーティーを追放されるなんていう大番狂わせが起きて、そのしわ寄せがこっちに来たのよ」

「え……」


 ルディアも絶句してしまう。

 何だその賭けは。勇者パーティーはギャンブルの対象じゃないんだけど。

 どうリアクションして良いのか分からなくなってしまった彼女と、いまだに口がパクパクしているルギーレに向かって、シスターは今回の依頼内容を話し始めた。


「だからね……まさかその追放されたあなたがこうして依頼を受けてくれるとは思ってなかったんだけど、こんな展開になったんだったら話が早いわ。そのタチの悪い連中を倒してほしいのよ。一人残らずね」

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