569.大木の城
ルギーレがそのレイグラードの今までと違う輝きに驚きと違和感を覚えているそのころ、彼が穴に吸い込まれる前の世界ではルディアたちがこのゼッザオの中心地までたどり着いていた。
『あれが我たちの本拠地の城だ』
「城……ですか?」
「ええっ、僕にはとてもそうは見えないなあ。だってあれってどう見ても木じゃないか」
「俺も同感だな」
人間たち三人が見つめるその先。
そこにはしっかりと大地に根を張っている、今まで見てきたどの木よりも遥かに大きな……それこそちょっとした山ほどの高さがあるのではないかともいえるほどの、天に向かってそびえ立っている大木が鎮座していた。
それはまるで、ルギーレが初めてセバクターの必殺技を見たあの塔を思い起こさせるものだった。
『そう言われてもな、あれが私たちが集まっている場所だからな……』
『そうそう。でも、今はどうやらあそこが獣人たちに乗っ取られちゃっているらしいね……』
シュヴィリスの言う通り、遠目から見てもその大木の周囲を鳥人たちが弓を持って目を光らせて警備しているのがわかる。
それだけでも物々しい雰囲気が漂ってきているのに、出入り口の両開きの大扉の周辺を始めとした大木周辺の地上には、どう見ても獣人たちが武器を手に厳戒態勢を敷いている。
ここから見える限りでも、恐らくは三百人ぐらいいるといってもいいだろう。
『うーむ、吾輩たちの棲み家をそれこそ足の踏み場もないほどに警戒しているとは、よほど何かを守りたいのだと見受けられる』
『俺様も同じ考えだぜ。でも俺様たちが一気にこのまま突っ込んで行くわけにもいかねえんだよな』
「え……何で?」
エルヴェダーにそう問いかけてみるエリアスだが、返答したのは彼ではなくセルフォンだった。
『それはな、某たちの居城に簡単に入ることができないように、魔力エネルギー弾を無数に撃ち出すことのできる発射口があの大木の至る所に取り付けられているからなんだ』
「うわー、苦戦しそうな予感しかしないね」
事実、一行が進んでいるようにこうして大木城の根元には王都の街並みが広がっているのだが、その街中にはうまく当たらないように調整されているエネルギー弾の発射口が無数に存在しているというのだ。
「……じゃあ、その大木の根元に中への出入り口があるんだな?」
『ああ。しかし向こうのことだから中に入れないように何かしらの対策をとっている可能性があるだろう』
「その場合はどうするんだ?」
出入り口が塞がれていたら中には入れないだろうと考えるセバクターだが、タリヴァルはここで大胆な作戦を持ち出してきた。
『その場合は強行突破だ』
「ああ、根元の出入り口から……」
『違う。空中からだ』
「えっ?」
タリヴァルの打ち出した作戦はこうだった。
下手に地上に降りて出入り口を目指すのは、向こうが大勢の敵を配備していると考えるとなかなかに危険なものだということだ。
そこで思いつくのは、大木の中間部分に存在している大きな円形の空間だという。
『そこは展望台として、城を見学に来た国民たちに開放してある場所だったんだが、そこの窓を割って一気に突入した方がいいんじゃないかと思って』
『そーだな。俺様もそれがいいんじゃねえかって思うぜ』
隣にやってきたエルヴェダーもまた、タリヴァルに同意して強行突入作戦を支持する。
しかし逆方向からやってきたセルフォンは、普通に突入した方がいいのではと反論する。
『そなたのいう作戦もわかる。だが、敵がそこにも罠を仕掛けていないとも限らん』
『それはそうだ。しかし、そう言っていても話が進まないだろう。どうにかして我らはあの中に入らなければならないのだからな』
というわけで考えた結果、タリヴァルとエルヴェダーとシュヴィリスの三匹が空中からの突破を試みる。
残りの三匹は地上部隊を壊滅させながら進むということになったのだが、どちらの突入作戦でも大きく邪魔になる存在がセバクターたちの進軍を遅らせることとなった。
「くそっ、全然前に進めないじゃないか!!」
『魔術でもどうにもならない霧だからな……濃すぎて振り払いきれないんだ』
イライラが募っているエリアスの横でグラルバルトの言う通り、現在のゼッザオには濃い霧が立ち込めている状態であった。
もちろん普段からこんな状態ではない。
こんな状態だったら普段の国民の生活もままならない状況になってしまうので、島の外側にのみ霧を張っている状態にしていたのがゼッザオだったのだが、これはどうやら大木城の中にある霧の発生装置がそうさせているらしい。
「その霧の発生装置を壊せばいいのか?」
『それを壊すと外の霧まで晴れてしまうから本当は壊してほしくないんだが、この状況だからやむを得ないだろう。ただまあ、壊すというよりもどちらかといえば霧の出る場所を操作できるからそこだけいじればこの霧も晴れるはずだ』
セバクターに対してアサドールがそういうものの、それこそ吹雪の中でセルフォンとタリヴァルがルギーレとともに獣人たちと戦った時のような視界の悪さが進軍を大幅に遅らせている。
それは敵も同じらしく、お互いに手探り状態で進むしかなくなっているのは地上も空中も同じだった。




