568.最深部にいた「ヤツ」
「ああ……ここまで来たってのにやっぱ最後はこうなんのかよ……」
進んでいくに従ってうめき声のようなものがどんどん大きくなっていく。
それとともに再びレイグラードの光り具合も強くなってきて、何だか目に悪いのだがもう仕方がないと割り切る。
そしてまたもや出てくる獣人たちを薙ぎ倒しながら、ようやく最深部ともいえるのかもしれない、先ほど獣人たちの集団と戦いを繰り広げた倉庫よりも三回りほど大きな長方形の部屋にたどり着いた。
いい加減、レイグラードの輝きも最高潮に達したのであろうその部屋の中からはうめき声が聞こえて不気味なことこの上ない。
そして、その不気味な声を出しているのであろう存在がその部屋の中にいるのが確認できた。
(な、何だありゃあ……!?)
それは、かつて勇者パーティーの一員として世界各地を見て回ったルギーレでさえも、獣人たちと同じく初めて見る魔物のようだった。
見た目としては狼の顔を持っていて、身体は……虎? 体格はかつてあの塔の屋上でセバクターが倒してくれたケルベロス並みに屈強で、人間の自分よりも大きいことは遠目でも分かった。
そして何よりも、その魔物の首から先が二つ存在しているのが大きな特徴だろう。
(まったく……ケルベロスといいあんなでっけえのといい、どーして俺の相手はあんな首の多い奴らばっかなんだよ)
自分は勇者パーティーのメンバーとして首がつながらなかった結果、世界中を冒険する羽目になってしまったのだが、それよりも今はどうやらレイグラードの導きによればあの魔物と戦うしかなさそうなのは明白だった。
「これまでにねえぐらいすげえ光ってるし……お前は俺に、あいつと戦えって言ってんだよな?」
もちろん相手は人間ではないので、そう問いかけても答えが返ってくるはずがない。
しかしこれまでに巨大クワガタだったりロックスパイダーたちだったり、金属製の人間型の兵器だったり四足歩行の狼型の兵器だったりと幾多もの巨大な敵たちと戦ってきたので、今回もきっと勝てるだろうと信じてルギーレはその魔物が闊歩している部屋の中へと足を踏み入れる。
(いや……ぜってえ勝たねえといけねーよな。じゃねえとここまであれだけの獣人たちをやっつけてきた甲斐がねえんだからよ)
魔物の様子を観察するために立ち止まっていたおかげで体力も回復したルギーレ。
彼はさらに近づいて、遠目からではわからなかったその大型の魔物についてもっとよく見てみることにしたのだが、見れば見るほどその見た目はかなり独特である。
まず狼の顔を持っていて、それでいて身体は虎のように四足歩行でしま模様。体格は屈強で、人間の自分よりも遥かに高い……自分を二つ縦に重ねて頭に届くほどの身長がある。
普通に戦えばその体格差で圧倒されてしまうので、大人しい性格で人間を襲うような魔物ではないことを願うしかない……が、ルギーレとレイグラードに気がついたようだ。
(げっ……こっち来る!!)
のっしのっしと遅めに、しかし敵意をむき出しにしてグルルルル……とうなり声をあげながら向かってくる大型の魔物に向けて、ルギーレはレイグラードに向かって体内の魔力を少し解放しつつ、脚に力を込めて地面を蹴る。
その魔力の解放によって、普段とは比べものにならないほどの跳躍力を得ることができたルギーレの身体は、一気に大型の魔物の顔の前まで飛び上がった。
その大型の魔物の眉間目がけて、魔力を溜め込んだレイグラードを両手で構えて一気に突き刺した。
「ギヒイイイイイイイイッ!!」
「チッ、浅いか!」
魔物の絶叫に鼓膜を破られそうになるのを我慢しつつ、ルギーレは狙いが浅かったことに対して舌打ちする。
だが、ルギーレの魔力を乗せたレイグラードの威力はこれで終わりではない。
ルギーレはレイグラードを両手でガッチリと握り締め、さらに魔力をレイグラードに注ぎ込んでやる。
「うおらああああああっ!!」
その魔力をレイグラードの先端から解き放ちつつ大声で叫ぶと同時に、レイグラードが刺さっている魔物の眉間が爆発した。
頭部をその爆発で吹き飛ばされた大型の魔物は、叫び声をあげることもできずに身体をゆっくりと地面に横たわらせる。
ルギーレはその衝撃で自由になったレイグラードを手放さないまま、空中で姿勢を制御して地面に降り立った。
「ふぅ、ま……こんなもんだろ」
正直に言えば、今までの獣人たちとの戦いの方がきつかった気がする。
それでもようやくこの場所の番人とも呼べそうな魔物を倒したのだから、何かしらの変化がこの先であってもいいんじゃないか……と思っていると、レイグラードが突然怪しく光り始めた。




