567.獣人という存在
「こんのやろおおおおっ!!」
いきなり不意打ちかけやがって、と毒づきながらルギーレは獣人たちを衝撃波で吹っ飛ばし、斬撃や突き攻撃で対抗していく。
今までやけに静かだったので違和感は覚えていたのだが、どうやら自分は待ち伏せを受けてしまったようであると気づいた時には、それこそ多数の獣人たちがルギーレを目指して通路の前後左右から現れたのだった。
前にもこんなに静かな場所で待ち伏せを受けたような記憶があるようなないような……と思いつつも、適当に獣人たちをあしらいつつ逃げ回る。
(向こうは大勢で、こっちは俺一人……こいつは厳しいぜ!!)
この妙な空間に出てきてしまう前にも、雪原で多数の獣人たちと戦いを繰り広げていたのがつい先ほどまでの出来事で記憶に新しい。
だがその時は自分以外にセルフォンとタリヴァルという、ヘルヴァナールの伝説のドラゴンたちが一緒に戦ってくれていたので、そこまでの苦戦はしていなかった。
それが今では自分一人。
先ほど、この獣人たちが出てくる前に魔術通信も試してみたのだがむなしく呼び出し音が鳴るだけで誰も応答してくれることはなかった。
(ちっきしょう、地の利は向こうにあるし俺はここのこと全く知らねえし!!)
勇者パーティーにいたころには世界中のあらゆる場所を回ったものだったが、その中にこんな不気味な場所の探索記憶はない。
そもそも獣人が出てきている時点でヘルヴァナールではないのは確かなのだから、ともかくこの謎の空間を脱出するべくまずは手近なドアの中に飛び込んだルギーレ。
そこはどうやら倉庫のような場所であり、だだっ広い正方形の場所で今しがた自分が入ってきたドアとは正反対の場所……つまり真正面にもう一つドアがあるのが見える。
しかし、そこに飛び込んだルギーレを追いかけてきた獣人たちによってまずはドアの鍵を二つとも閉められてしまい、更には倉庫の中に置いてある様々な山積みの荷物や備品棚などの影から多数の獣人たちが現れる。
「よっしゃあ、かかったぜ!!」
「ぶっ殺せえええ!!」
「ちっ……!!」
光り輝くレイグラードの導きによって進んだこの場所は、ルギーレに逃げ場をなくして閉じ込めて一気に仕留めるために作られた罠の部屋だったらしい。
こうなったらこの部屋の中の敵を殲滅しなければ先へと進めないのが明白なので、すでに走り回ったのと戦ってきたことで疲れている身体に鞭を打ち、ルギーレはレイグラードで次々に獣人たちを倒していく。
だが、そんな彼も戦う中で徐々に違和感を覚えるようになっていた。
(この建物の中をレイグラードに導かれて進んできたけど、行く先々で敵に出会う。地の利が俺にないからそれはわかるし、どこかで誰かが俺を見ていたりすんのか?)
そうでもなければ、こんな進む度に敵が大量に出てくるわけがないんだよなあと考えつつも、気がついてみれば倉庫の中は倒れ伏した獣人たちのうめき声がこだまする地獄絵図と化していた。
ようやくもう一つのドアも開けられる状態になった今、少し休憩してからその先へと進むルギーレの手の中でレイグラードの輝きがますます強くなっていく。
それと同時にルギーレの疑問も強くなっていく。
(この建物の中から脱出するべくこうして進んでいるわけだが、何だかよくわからねえけど覚えるこの違和感は何なんだ……?)
どうにも進むのをためらいがちになってしまうこの場所だが、かといって進まなければ先の道筋も見えてこない。
幸いにもこの倉庫は広いので休む場所があるため、体力を回復した彼は再び魔晶石を使って連絡を取ろうとしてみるものの、結果は前回と変わらず連絡がつかないままだった。
(あーっ、くそ!! 俺がどうしてこんなことに巻き込まれなきゃなんねえんだよ!!)
頭の中が混乱しっぱなしでどうにかなってしまいそうなので、さっさとここを抜け出るべくもう一つのドアから先に進み出すルギーレだったが、その時不意にどこからかうめき声のようなものが聞こえてきた。
(……ん?)
うぅー、うぅーという低い声のような音が通路の先から聞こえてくる。
先ほど自分が殲滅したあの倉庫の中の獣人たちが出している声が聞こえてきているのだろうか、と振り返ってみるものの、どうやらそれとは反対方向から聞こえてきているのでまた別の何かがいるらしい。
となればまだまだ戦いは終わりそうにないのだろうとルギーレは思わずため息を吐き、光り輝くレイグラードに従って再び足を進め始める。
全ては獣人のいない自分の世界に帰るために。




