566.ルギーレの行方
「ええっ、ルギーレが消えてしまったんですか!?」
『そうなんだ。それも某の目の前でな……。周囲の気配も探ってみたがさっぱりあの男の反応がない。すまない……某がもう少し速ければ……』
『そんなこと言ったってしゃーねーだろ。とりあえず俺様たちはルギーレがどこに行ったのかを捜さなきゃなんねえだろ!!』
落ち込むセルフォンにエルヴェダーが檄を飛ばし、今の自分たちがやるべきことを確認する。
だが、そんな意気込むヘルヴァナールの一行に水を差す発言をしたのはセバクターだった。
「ちょっといいか」
「どうしました?」
「恐らくなんだが、ルギーレはこの世界にはいないかもしれない」
『はっ?』
セバクターのその発言に真っ先に反応したシュヴィリスが、一体どういうことなのかとその発言の真意を問う。
『何でそんなことがわかるのさ? この世界にいないだって?』
「ああ。この雪原で大量の獣人たちと戦ったんだろう。となるとその連中は、ルギーレが消えていったっていう黒い穴の向こうから現れた可能性がかなり高い」
そういうセバクターに続いて、エリアスも同意の色を隠せない。
「僕も同感だね。それって多分ディルクが作ったんだろうね」
『ディルクだと? 君はなぜわかる?』
「そりゃあそんな穴が出てきて、ルギーレが吸い込まれていったんだろう? とても普通の人間にできるような芸当じゃないだろうね。ディルクは僕やセバクターが追いかけている中でいろいろな話を聞いている人間だけど、世界最高ともいわれるほどの魔術師だからねえ」
そのディルク、そして弟子のニルスが作ったのだと考えれば納得がいく。
エリアスとセバクターは向こうの世界の伝説のドラゴンたちの力を借りてこの世界にやってきたのだが、もし本当にあの穴がニルスやディルクたちが作ったものだとすれば、彼らは自由に世界を行き来できることになるのだろうか?
「そうなると……いくらこっちで攻撃しても生きてさえいればいくらでも戦力を立て直すことができそうですね」
「そうだね。それに獣人たちもその穴から出てきていたってことは、恐らくルギーレは今ごろ獣人たちと戦っているんじゃないのかな?」
『そうだとしたら俺様たちも何とかしてそっちの世界に行きたいが……でも方法がねえんだろ?』
「残念ながら……」
どこかに同じような出入り口があればいいんだけど、とこうして合流したので手分けしてそれを探してみようと考えるエリアスだが、この猛吹雪の中ではなかなかきついものがある。
そこで重要になってくるのはドラゴンたちの存在だ。
「後は……空から探すしかないかもね」
『我らが手分けしてそういう出入り口がないかを探すというわけだな』
「そうだね。それから……獣人たちがまたどこかで襲ってきたら、もしかしたら近くにまだそういった出入り口があるかもね。まだこの島を全部見て回ったわけじゃないんだし、ここはドラゴンたちの地元だっていうのであればやっぱり地元の住民たちに捜索を手伝ってもらうのが一番効果的だよ」
何だかうまくエリアスに誘導されてしまっている気がするが、結果的には彼の言うことがもっともだと思うので、またもや三方向に分かれてその穴とやらを捜索することにした。
今までルギーレと一緒に行動していたセルフォンとタリヴァルにはエリアスがつくことになり、何とかしてルギーレの手がかりを掴むべくこのゼッザオという土地を探索しようと意気込んでいた。
それと同時に、獣人というこのヘルヴァナールの世界にはいない種族の生物たちと実際に戦ったセルフォンとタリヴァル、それから異世界の住人であるセバクターとエリアスから、他のドラゴンたちとルディアはその恐ろしさを聞いておく。
「……じゃあ、動物と人間の夫婦が……ってことですよね?」
「そうだよ。獣人がこっちの世界には当たり前の後継として存在しているから僕たちは驚かないけど、人間しかいないこの世界ではそりゃあ奇妙な存在だよねえ」
「正確に言えば、獣人はそれぞれの動物から進化した存在だ。獣人は人間たちの知能に加えて、それぞれの獣の能力も併せ持つ」
狼や虎といった瞬発力と素早さが大きな利点の者もそうなのだが、ドラゴンたちにとっての脅威はそれこそ人間たちと同じ知能を持つ上に背中に翼を生やしている鳥人たちであった。
『僕たちと同じで空を自由自在に飛べるなんて……何だか腹が立つのはどうしてだろうね』
『その気持ちは吾輩もわかる。しかし、それがそちらの世界では当たり前なのだから興味もある』
『某たちは実際に戦ったからわかるが、某たちよりも小さな身体でちょこまかと飛び回って弓矢を放ったり、槍で攻撃したりしてくるんだ。おまけに素早いからこちらの攻撃も当たらないことが多くて、やむなく地上に降りた方が戦いやすかった』
そんな情報をヘルヴァナールの住人たちが仕入れている中、謎の穴の先に引っ張り込まれてしまったルギーレはまさに、エリアスの予想通りその獣人たちと戦いを繰り広げていたのである……。




