563.落ちるワイバーン
巨大化したアディラードはそのままワイバーンの突風にも負けない状態で近づくと、自由に飛び回っているワイバーンの尻尾に右手を伸ばしてガシッと鷲掴みにする。
『グルッ!?』
尻尾を引っ張られてバランスを崩すワイバーンだが、それはアディラードにとってのチャンスになる。
続けてはためかせていた二つの翼のうち、左側の翼を掴んで力任せに引っ張りさらにバランスを崩させることに成功したアディラードは、ワイバーンを地面へと引っ張り落とす。
『ギャッ!?』
『今だっ、アサドール!!』
グラルバルトの声に反応したアサドールが、自らの魔力を最大限に注ぎ込んだ極太の木のツタ……というよりもそれは幹に近いものを何本も地面から生み出し、叩きつけられたワイバーンを素早くその地面へと縫い止めることに成功した。
『グルルルルッ、ガッ、ガウウウウッ!!』
『大人しく……しろっ!!』
何とか脱出しようともがいて暴れる超巨大ワイバーンの頭を、今度は上から降りてきたグラルバルトが前足二本で鷲掴みにして、何度も何度も地面へと叩きつける。
それと並行する状態で、ルディアに向かって指示を出した。
『ルディア、君の魔力を残っている分だけ使って、この口の中にエネルギーボールを叩き込むんだ!!』
「は、はい!!」
とは言われたものの、自分も何かしらの援護をもう少しできないかと考えてすでにエネルギーボールの充填をしていたルディアは、その右手に握っているエネルギーボールにさらに魔力を注ぎ込む。
先ほど、このアディラードを巨大化させるのに多量の魔力を使ってしまったために、本来の自分の魔力を全て使って生み出せる大きさにはほど遠いものの、それでもワイバーンな口の中に叩き込むだけの大きさとしては十分なものがあった。
「せいっ!!」
『ガ……ガアアアアアアッ!?』
逃れようにも太いツタでがんじがらめに地面に固定され、グラルバルトとアディラードに地面に押さえつけられている上に、アディラードの両手によって口を強制的に開かれているワイバーンが逃げられるはずもない。
そしてエネルギーボールがワイバーンの口の中に飛び込んでくるその瞬間、アディラードとグラルバルトは一気に戦線を離脱する。
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
それに一瞬遅れる形で、巨大ワイバーンの口を中心に青白い光の大爆発が巻き起こる。
余りの衝撃にワイバーンの周囲の地面は抉れ、大きな岩や木が吹っ飛ばされる。
ルディアとエリアスにそれが直撃しないように二匹のドラゴンとアディラードが壁となって守ってくれたのだが、後に残ったのはルディアたちの予想を超えるほどの衝撃の凄まじさを物語っている光景だった。
「え……ここまで私がやっちゃったの?」
「凄いなあ……」
ルディアもエリアスも絶句するのは仕方がない。
なぜなら、ワイバーンが拘束されていたはずの地面にはそのワイバーンの「形」しか残っていない。
どれだけの魔力エネルギーが爆散すればそうなるのかと言わざるをえないほどの地面の抉れ方と、周囲に漂う焦げ臭さがあの巨大ワイバーンを跡形もなく消し去ったのだという事実を、この場にいるパーティーメンバーたちに教えてくれていた。
『やったな。これであのワイバーンの脅威は去ったぞ』
『ああ……だが、吾輩たちよりも大きなワイバーンなんて見たことがない。これは一体何なのだ?』
「多分これは……ニルスかディルクの生み出した生物兵器かもしれないね」
事実、ここに来るまでの間に例えばあの大型の人型兵器だとかクワガタの兵器だとかの話を、ヘルヴァナールのメンバーたちからセバクターとともに聞かされていたエリアスは、ある程度の確信を持ってそう告げた。
だが、このワイバーン一匹で生物兵器の脅威が去ったとはまだ言い切れないのが現実である。
「こういうものを生み出して、この世界に解き放てばそれだけでこの世界に災厄が訪れる。それで自分たちの存在をなるべく示さずにこの世界を征服するとか……あるいは単純に戦力が足りないから、こういう大型の兵器を造って攻めていくとか……そういうやり方なんじゃないかな?」
ちまちまと回りくどいやり方で世界を征服しようというのも、敵は色々と考えた上でやっているのだろうか?
それについてふと思い出したことをルディアがエリアスに聞いてみる。
「そういえばエリアスさん、さっき獣の臭いとか獣人の気配とかって話をしてましたよね? あれってまだ臭いますか?」
「ん……いいや、このワイバーンを倒したら風がかなり弱くなって、もう全然感じなくなったよ」
ということは、ワイバーンが巻き起こしていた突風がどこかから流れてきていた獣人の臭いを自分たちに運んできていたのでは?とルディアは予想する。
そしてその予想は、ここから離れた場所に着陸したルギーレたちの方で当たってしまっていた……。




