562.突風の正体
「え……あ、あれが突風の正体?」
「でっかいな……」
ルディアとエリアスが見上げるその視線の先には、バッサバッサと翼を動かす一匹の茶色のワイバーンの姿があった。
いや……ワイバーンはワイバーンでも普通の大きさならまだ余裕で対抗できるのだが、今回ルディアたちの目の前に現れたのは……。
『くっ、縦にも横にも普通の奴の五倍は大きいぞ!!』
『こんな個体がいたのか!?』
ドラゴンたちもそのワイバーンの大きさに驚きを隠し切れないのだが、だからといってここで引き下がるわけにはいかない。
それによく考えてみれば、いくら大きくなろうともワイバーンはワイバーンなので、ワイバーンに対しての戦い方で挑めばいいのだが……。
「ぶぅ……わっ!! こっ、これじゃ近づけませんよ!!」
元の姿に戻ったドラゴンたちならまだしも、人間のルディアとエリアスの場合はこのワイバーンが翼を激しくはためかせて起こす突風に、なすすべもなく吹っ飛ばされてしまっている。
ここに突入した先ほどから吹き荒れている突風は、元々の吹き荒れている風に加わる形でこのワイバーンが起こしているものがあるらしく、前に来た時よりも突風が強くなっている……というのはグラルバルトの談である。
さらに自分たちよりも大きなワイバーンを相手にしているドラゴンたちも、空中で姿勢を維持するのもやっとという感じであった。
(獣の臭いがしたと思ったんだけど……気のせいだったのかな?)
もしかしたら、この突風のせいでどこか違うところから獣の臭いが流れてきているのではないかというのがエリアスの予想だった。
しかし、今の状況はそんなことを考えている暇はない。どうやってこの平原のだだっ広い場所に現れた超巨大なワイバーンを倒すかどうかが最優先事項である。
ならば、巨大には巨大をぶつけるしかないだろうと考えたエリアスは自分の相棒と呼べるような存在を呼び出すことにしたのである。
(よし、頼むぞ……アディラード!!)
今まで何度も、そしてこの世界においても活躍してくれたアディラードを自分の杖から呼び出したエリアス。
しかし、その姿を見たことがあるのは今このエリアスと一緒にいるメンバーたちの中でも恐らくいないかもしれない。
そんな彼がステッキを腰から外して伸ばし、地面に先端をつけて魔力を送り込んで実体化させる自慢の召喚獣の一種であるそれこそ、巨大生物のアディラードであった。
これでこの巨大なワイバーンと取っ組み合いでも何でもして止められる……と思ったのだが、事態はそう簡単にはいかないようで……。
『く……っ、だめだ、吾輩の森の力を力ではじき返されてしまう!!』
『私の砂嵐や岩の雨も、まるで歯が立たないぞ!!』
そう……ドラゴンたちの力をもってしてもその巨大なワイバーンは全てを力でねじ伏せてしまうという、非常に単純かつ強力な反撃をしてくるので大苦戦している。
突風で砂嵐が吹き飛ばされて視界が晴れ、拘束のために生み出された多数の木のツタや大木がいとも簡単に引きちぎられ、破壊されてしまう。
さらに巨大なワイバーンは攻撃こそ当てやすいものの、それは同時に攻撃範囲が広くなっているということでもあり、予期せぬ距離にまでその攻撃が届いてくるというのが厄介極まりない。
「くっ……私たちでは歯が立たないっていうのかしら!?」
突風になすすべなく翻弄されっぱなしのルディアが、地面に両手と両足で踏ん張りながら悪態をつく。
エリアスがそれを見て、自分が先ほど生み出したアディラードに一度目をやってから再度彼女の方を見て、あることを思いついた。
「……そうだ、おいルディア、君の魔力をありったけこのアディラードに送り込んでくれ!!」
「え、何するんですか!?」
「いいから早く!! 魔力を送り込めば送り込むほど巨大化できるんだよ!! でも一定時間が経過するとアディラードは消えてしまうから、一気にこのワイバーンを倒すために君の魔力が必要なんだ!!」
「は……はい!!」
エリアスが何をしたいのかを把握したルディアは、突風吹き荒れる中でも必死に地面をはいつくばって、着ているローブを土で汚しつつアディラードの足元に接近する。
そして地面を通じて、両手からアディラードに向かって己の魔力を流し込み始めると、のっしのっしと歩いていたアディラードがピタリと足を止めた。
そしてプルプルと震えだしたかと思うと、少し間をおいて見る見るうちにその体躯が大きなものへと変化していく……。
「よし……よし、よし!! ここまで大きくなれば反撃できるぞ!!」
「な、何ですかこれは!?」
「僕の相棒さ。詳しいことはまた後で説明するから。それよりも今からこいつにあのワイバーンと戦ってもらうんだよ!!」




