561.風の吹く平原
イソギンチャクの中に飛び込んだセバクターがファイナルカイザースラッシャーを繰り出して、目標物を大爆発させているそのころ。
南東から突入をかけたグラルバルトとアサドールとエリアスとルディアの四人は風の吹き荒ぶ平原へと降り立っていた。
「うっわ、凄い風!!」
「本当ですね……吹き飛ばされそうです!!」
『ここはセルフォンの棲み家でもあるんだが、私たちにとっては非常に居心地が悪い場所でもあるもんだ』
事実、この場所に着陸するまでの間にアサドールもグラルバルトも翼を必死に動かして自分たちの身体が流されないようにしていただけあって、さすがにここに直に着陸するのはしんどかったと語る。
『吾輩たちがここに来るのなら、もっと大きく迂回して風のないような場所を選んでくるのだが、今はこんな事態になっているわけだから仕方がない』
とにかくこうして着陸できたので、さっさと敵の本拠地になっているかもしれない場所を探そうと人間の姿になったドラゴンたちがいうのだが、その一方でエリアスが妙なことを言い出した。
「感じる……」
『ん? 何がだ?』
「獣の臭いをやたら感じるんだ。それも、この世界にきてから初めて」
『獣のって……獣は吾輩たちの世界にはたくさんいるものだが、そっちの世界には全然いないのか?』
しかし、エリアスのいう「獣の臭い」とはどうやらエンヴィルーク・アンフェレイア特有のものらしいのである。
「いや……その、多分君の言っている獣の臭いと僕の言うのとは違う気がする。僕は獣人の話をしているんだ」
『獣人?』
「え……なんですかそれ?」
『私も聞いたことがないな。言葉からすると恐らく、獣と人間の合成獣みたいな存在か?』
揃って首を傾げるヘルヴァナールのメンバーたちだが、エリアスは「そんなんじゃないよ」と否定する。
「獣人っていうのは、それこそ獣が人間と同じように進化の過程を経て、人間と同じように生活するようになった存在のことさ。それに、進化した獣たちによって人間である僕よりも感覚が優れているのが当たり前だ」
エリアスが説明するところによると、それこそ進化した獣の種類だけ獣人もいるし、獣人の種類で何が優れているのかもある程度決まっているようなのだ。
例えば狼から進化した狼獣人の場合だと、本来は視力が余り良くないのだが人間と同じ生活をすることによってその視力が人間並みになっただけでなく、人間よりも遥かに優れている嗅覚と聴覚を持っているのだとか。
「さらに狼の獣人たちは身体能力も高いんだよ。後は虎獣人とかゾウ獣人とかは筋力が人間の比じゃないから、力仕事やってるのが多いね。……ああ、それから鳥から進化した鳥人ってのもいて、背中に翼が生えて空飛んでるから郵便物とか荷物の配達とかやっているのが多いよ」
『うーむ、そっちの世界は私たちの想像が及ばないことだらけだな』
『本当だな。それでその……獣の臭いがするっていうのはもしかしてこっちの世界に獣人たちがやってきているとか、そういうことを言いたいのか?』
「可能性は高いね」
エリアスは迷いなく頷いた。
「だって、それこそ向こうの世界……僕たちのエンヴィルーク・アンフェレイアから僕とセバクターだったり、レディクとニルスがやってきたりしているんだよ? 僕たちは向こうのドラゴンたちに送り込まれる形でこっちの世界にきたわけだけど、レディクとニルスたちは魔術でも使ってきたとかじゃないの?」
だからこそ、その魔術でエンヴィルーク・アンフェレイアの獣人たちをこちらの世界に呼び寄せていたって何も不思議ではないのだとエリアスはいう。
その話に食いついたのはルディアだった。
「世界を渡ることができる魔術があるなんて……信じられないですね。やはりそれも、元々はドラゴンさんたちがこちらの世界と繋がりがあったからでしょうか?」
「かもね。過去に何があったかは知らないけど、エンヴィルーク様もアンフェレイア様もこっちの世界と関わりが少しはあるんだって言ってたし」
そうなると気になるのは、この先に待ち構えているかもしれない……というのがその獣人たちであり、ルディアが見た予知夢らしき夢の内容があるのかもしれない。
ただし今はまだ確定したわけではないので、ここはとにかく先に進むしかないのだ。
『獣人……か。吾輩もいろいろと研究したいものだな』
『おいおい、悪い癖を出すなよ。君は色々と解剖したがるみたいだからな』
学者としての好奇心が姿を見せ始めているアサドールにグラルバルトが釘を刺しておき、四名は突風吹き荒れる平原をひたすら先へと進んでいくのだった。




