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559.触手生物

 口の周りに毒を持っている触手を多数生やしているイソギンチャクだが、三名の目の前に現れたそれは全体的にドス黒いのがまず目を引く。

 それに、明らかに建物の五階分ぐらいまでの高さを感じさせるその大きさが不気味さと迫力に拍車をかけている。

 さらにいえば、普通のイソギンチャクはそこまで触手が長くないはずなのに、目の前の貯水池の中から姿を見せているこの巨大イソギンチャクは、その無数の触手が異常なほど長い上に胴体に負けないほど黒い。

 それを見て、どう考えても先ほど霧の中から突然現れた鞭のような物体はこれなのだろうと容易に当てはめることができる。

 事実、その無数の触手が三名を狙ってバシンバシンと上から下に振り下ろされてくるからである。


「あんな触手の使い方をするイソギンチャクなんてものは見たことがない。恐らくこの世界でもあり得ないのかもしれないが……」

『うん、あんなのは僕たちも見たことがないよ。恐らくは改造生物か何かだろうね』


 相手はあのニルスとディルクの二人なのだから、何が出てきたって不思議ではない。

 どうやってこのゼッザオに入ったのも謎なのだが、それはここにいるであろうあの二人を見つけ出して直接聞いてみればいいことである。

 それよりも今は、目の前で大暴れしているイソギンチャクをどうにかして倒さなければこの先の安全も確保できないのが現状だった。


『よーし、こーなったら俺様があいつを囮になる!!』

『大丈夫なの?』

『ああ、少なくとも普段から絵ばっかり描いて運動してねえお前よりは素早く動けるからな。それにこの貯水池だから、俺様の炎の攻撃は水の中に潜られちまったら全然効果ねえし』


 それだったら、水に強いシュヴィリスが攻撃の要になったほうがいいだろうというのがエルヴェダーの作戦である。

 さらに、エルヴェダーにはその先の作戦もきちんとあった。


『俺様元の姿に戻ってあいつを惹きつけている間に、お前はセバクターと一緒にこの貯水池を凍らせてくれ!!』

『……わかった。それで動きを止めるんだね?』

「そしてトドメを刺す……か。それはいいが、このでかいイソギンチャクの弱点はわかるのか?」


 そう、弱点がわからなければいくら相手の動きを止めたところで無意味なまま終わってしまうだけである。

 しかし今の段階では、まだイソギンチャクの弱点がわからないまま挑んでいくしかなさそうであった。


『わからねえ。でも、生き物である以上は絶対にどっかに弱点があるはずなんだよ。だからこそ、それを見つけるために今から動いて……うおおっ!?』


 作戦の説明に夢中になっていたエルヴェダーめがけ、触手の一本がイソギンチャクから振り下ろされてきた。

 それを間一髪で避けたエルヴェダーは、イソギンチャクを見上げて鋭く舌打ちをする


『くそっ、お喋りしてる暇はなさそうだ。俺様は行くぜ!!』

「ああ……気をつけろ」


 駆け出したエルヴェダーの身体がまばゆい光に包まれ、二足歩行の人間から四足歩行の赤いドラゴンへと姿を変えたかと思えば一気に翼を動かして空へと舞い上がって行った。

 そして空中から炎のブレスを吐き出して、イソギンチャクの気を引くために行動を始める。

 それを見ながら、鞭となって襲いかかってくる触手に気をつけつつシュヴィリスとセバクターも貯水池のヘリに向かって駆け出した。


『よーし、これからこの池を凍らせるけど……その間の僕は攻撃も防御もできないから、護衛は君に任せるよ!!』

「わかった」


 異世界からやってきたとはいえ、戦いの基本はこの世界においても何も変わらない。

 自分だって一国の騎士団で副騎士団長を務めているため、こんな化け物が相手になったことだって向こうの世界で何回もあった。それだけの場数を踏んできているため、ここで素直に負けるわけにはいかないのである。


「ふっ!!」


 最初は鞭のようなその触手の軌道に戸惑っていたセバクターも、冷静に観察してみれば速さはそこまで速くない。

 それに図体が大きくて触手も長くなっている分、軌道が読みやすいことに気がついた。

 だからこそ、襲いかかってくる触手を愛用のロングソードで一刀両断できるだけの余裕まで出てきたのである。


「そこだっ!」


 風を切って振り回される触手を避けながら、すれ違いざまに斬り裂いてやるセバクターの護衛の一方で、貯水池に向かって自分の強大な魔力を氷に変換しながら凍らせ続けるシュヴィリス。

 向こう岸が見えないぐらいの広さがあるだけのこの貯水池が、パリパリと音を立てて少しずつ凍っていくのと同時に、好き勝手に無数の触手を振り回していたイソギンチャクの動きも次第に鈍くなっていく。

 さらにいえば、上空を旋回しながらイソギンチャクの攻撃の囮を買って出たエルヴェダーが、シュヴィリスの氷が溶けないようになるべく上空で炎のブレスが終わるように調整しながら戦ってくれていたのだが、その彼がイソギンチャクの動きが鈍くなったことでとある発見をすることに成功した。

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