557.空飛ぶドラゴンたち
「それで、確か勇者パーティーにいた時はゼッザオってのが霧に囲まれた島だって聞いた覚えがあんだが……それってどうやって突破するんだ?」
ただ単にそのまま突破しようとしても、魔術防壁で弾かれてしまうと船乗りたちが言っていたことも聞いた記憶があるルギーレ。
それについてはアサドールがあるものを用意してくれていた。
『それに関しては、我輩とセルフォンが特別に開発した薬があるから、今のうちにこれを飲んでおけ』
「何だこりゃ?」
『一時的に魔力をなくすための薬だ。ただし持続時間は短めに作ってあるから、霧の中を抜けて向こうの陸地にたどり着くまでの間には、また魔力が復活するはずだ』
「わかった。それじゃこれを使って乗り込むぜ!!」
そういえばアーエリヴァにセルフォンとマルニスと乗り込んだ時もこんな展開だった気がする、とルギーレは思い出しつつもいよいよ最終決戦に向けて緊張感が高まってくる。
「このレイグラードが俺をいつ裏切るかって……不安だぜ」
『だからこそ、我らがこうして六匹揃ってレイグラードに対抗するためのエターナルソードを取りに行くんだ』
そうでなかったとしたら、六匹の色とりどりのドラゴンたちがこうしてまとまって空を飛んでいるわけがないのだ。
それに、いざという時に戦力を分散できるようにタリヴァルの背中にルギーレが、アサドールの背中にエリアスが、エルヴェダーの背中にセバクターが、グラルバルトの背中にルディアが乗っている。
「そういえば、ドラゴンさんたちは魔力をなくす薬はもう飲んだんですか?」
『もちろんだ。まあこの状況だと人間の姿にもなれないから、そこは薬の効果が切れるまで待つしかない』
そうこう言っているうちに、ドラゴンたちは地上からの邪魔を避けるべく東に向かってまずは海の上へと出ていく。
そこから海の上を南西に向かう形で飛び続け、まるで入り江のようになっているファルスとバーレンの南側を目指すのだ。
『そこからもう少し行った先の南側に、某たちが元々の棲み家にしているゼッザオがあるからな』
『えー、でもさー、こんなに固まってたらヤバくない? 向こうにだって敵がいるかもしれないよ?』
シュヴィリスの一言が他のドラゴンたちと人間たちに伝わるが、だからといってここで引き返すわけにはいかないし、そもそもゼッザオは島なので船かこうした空中移動の手段でしか向かうことができない場所である。
なので、島の三方向から二匹ずつで戦力を分散して突っ込む作戦を取る一行。
『シュヴィリスと俺様とセバクターで北東から、おっさんとアサドールとエリアスとルディアで南東から、そしてセルフォンとタリヴァルとルギーレで南西から攻めるんだろーが』
『そうそう。それに某たちはこうして大きな竜の身体をしているんだから、目立って敵に見つかることは想定内だ』
ドラゴンたちがそう会話をしているのを聞いて、ルディアがふと考え込む様子を見せる。
それに気がついたグラルバルトが彼女に声をかけた。
『どうした? さっきから黙ったままだが』
「うーん……何だか嫌な予感がするんですよね」
『予感だと?』
もしかして、それは例の予知夢とやらを見たからなのか? とグラルバルトが尋ねるが、ルディアは首を横に振った。
「それは……それかどうかはわかりません。でも何でしょう、このゼッザオに近づいていくにつれて感じる悪寒といいますか、その……うまく言えないんですけど、一筋縄じゃあいかないような気がするんです」
『ふむ、それはわかる。しかしゼッザオはもともと私たちの地元だ。ぽっと出の人間たちがそう簡単に制圧できるような場所ではないのだよ』
七匹のドラゴンたちの中で最も長く生きているからこそ、そういう土地なんだと断言するだけの説得力を持っているグラルバルト。
だが、それを横で飛びながら聞いていたシュヴィリスが妙なことを言い出した。
『確かにそれはそうかもしれないけどさグラルバルト、僕もルディアと同じだよ』
『君もか?』
『うん。向こうは異世界からやってきた魔術師に、それからその弟子だっていう男の人がいるんでしょ? こっちの世界じゃ通用しない常識があっても驚かないよ』
『それはまあ……そうだが』
今までの長い経験から導き出される自信よりも、七匹のドラゴンの中でアサドールに続いて二番目に若いシュヴィリスの考えの方が当たるのだろうか?
少なくとも地の利という面ではこちらに分があるのかもしれないと考えていたグラルバルトたちは、ようやく遠くの方にポツンと見えてきた白い霧のカーテンに向かっていくにつれて、敵の恐ろしさをまざまざと見せつけられることになるとは思ってもみなかったのである。




