556.久々の予知夢
赤くて大きな光が迫ってくる。
逃げても逃げても追いかけてくる。
振り向いてそれが何なのかを確認しようにも、すぐそばまで迫ってきている赤い光に恐怖が勝ってしまい、前だけを向いて走っていくことしかできない自分。
「はあ、はあ……あっ!?」
何かにつまずいて転んでしまった。
慌てて立ちあがろうとする自分だが、なぜか身体全体に力が入らない。
そこでようやく後ろを振り向くことができたものの、振り向けただけで首から下に力が入らないことには変わりがなかった。
そして自分のの目に映ったのは、赤く光るその大きな光がだんだんと黒く変色していき、ついに自分の目の前まで迫ってきて……。
◇
「…い、おい、ルディア!!」
「はっ!?」
「あ……目が覚めた。すごいうなされていたみたいだけど、大丈夫?」
目の前に見えたのは、自分の顔を覗き込む三人の男の顔だった。
それを見て、続いて自分が汗を大量にかいて寝ていたことに気がつく。
そうだ……昨日はゼッザオに乗り込むことを決意して早めに寝て体力を温存しようと考えていたのに、まさか予知夢のようなものを見ることになるとは。
というかこれも予知夢かもしれないので、ルディアは今しがたまで自分の見ていた夢について他の三人とドラゴンたちに話しておくことにした。
「……というわけで、赤い光が黒く変色してね」
『ふーむ、吾輩たちも長く生きているが、そんなのは見たことも聞いたこともないな』
『そうだねえ、多分それはレイグラードの隠された力とかじゃないの? 僕たちにはわからないけど、レイグラードが元々いた世界からやってきた君たちなら何か知ってるんじゃない?』
しかし、シュヴィリスの質問にセバクターとエリアスは首を横に振るだけだ。
「知らん。俺たちはそういう剣があるだけだって知らされているだけだからな」
「向こうのエンヴィルーク様とアンフェレイア様からね。一応、レイグラードを追うにあたってどんなロングソードなのかいろいろ聞いてきてはいるけど、そんな夢の内容のような現象とかについては聞いていないね」
『あ、そうなんだ……』
夜中のうちにアーエリヴァまで飛んできたアサドールとシュヴィリスは、少なくともレイグラードうんぬんと夢の内容が合致するかどうかについては定かではないという。
そもそもこのルディアの話が、彼女が見た夢の話だし予知夢だって前に彼女自身が言っていた通り絶対に当たるわけではない。
そもそも完璧に当たってしまうような予知夢を毎回見るような人間であれば、とっくにヴィーンラディの反予言者派の人間たちに殺されていたはずなのだから。
『まあ、今はそれを考えてもしゃーねーだろ。俺様たちだってそれが当たるかどうかわからねーんだからさ』
『そうそう。私たちが今やることはゼッザオに向かうことだ』
同じくアーエリヴァまでやってきたエルヴェダーとグラルバルトのシュア王国看視コンビのドラゴンたちも、予知夢については今は気にする必要はないという。
このアーエリヴァの一般人たちを虐殺した人間たちとして、マリユスたちにはめられていたルディアたちの容疑が、マリユスを倒したこととマルニスやガルクレスの証言によってせっかく晴れたばかりだというのに、また新たな問題が増えるのを懸念していたら身がもたない。
だが一方で、その話を聞いていたセルフォンと白いドラゴンのタリヴァルはあのことについて話を絡める。
『それってもしかすると、あの地下で見たっていう精霊が関係していたりするのか』
『その可能性はあるかもしれないが、我たちの言っていることは全て憶測に過ぎんからな。……しかし、精霊というものの存在は確かにこの世界にあるが、あの連中は基本的に人間たちには干渉しないはずだったんだがな……』
自分たちの知らないところで、精霊たちに何かしらの意識変化が起こっていたりしたのだろうか?
しかしそれも考えたところでさっぱりわからないので、まずはゼッザオに乗り込むべくドラゴンたちも動き出した。
(精霊って奴が何を考えているのかはわからねえけど、とりあえず地下で出会った時は封印がどうのこうのとか精神は移動できるとかわけわかんねえことばっか言ってたっけな)
だったらその精霊にまた会った時にいろいろ聞きゃいいじゃねえかと、単純に考えてルギーレはドラゴンの背中に乗って、まだ見ぬ陸地へと向かって飛び立っていった。
レイグラードにまつわる全てのことについて、決着をつけるために……。




