554.ドラゴンたちと異世界
「……うん、大体の事情は呑み込めたし元々ルギーレから報告は受けていたからね」
アーエリヴァ全体を覆っていた魔術防壁が消えたことがきっかけで、ルギーレたちとルディアたちが合流することに成功した。
もちろんやってきたのはルディアだけではなく、このアーエリヴァの看視者である黄色いドラゴンのグラルバルトも一緒である。
『私たちも話を聞いたが、そのディルクやニルスの言っているエンヴィルーク・アンフェレイアという世界は確かに存在する……ようだ』
グラルバルトはそう言っているものの、伝説のドラゴンである彼らもまたそちらの世界に行ったことはない。
そもそもその話は、ドラゴンたちの先祖がこの世界を生み出したことから全てが始まるからだ。
『私たちはいわゆる世襲制でな。産まれた次のドラゴンが次のグラルバルトやセルフォンになる。そして最初の七色のドラゴンたちがこちらの世界を創ったんだが、そのきっかけはエンヴィルーク・アンフェレイアを創った三匹のドラゴンたちと揉めたからって聞いている』
「……話が難しくなってきやがったな……」
頭を左手で押さえながらも、ルギーレは何とかグラルバルトの話についていこうとする。
一方で、その話を横で聞いていたセバクターとエリアスのエンヴィルーク・アンフェレイアからやってきた二人組は、その話に聞き覚えがあるようだった。
「それなら僕とセバクターも聞いたことがあるよ。エンヴィルークはオスのドラゴンで、アンフェレイアはメスのドラゴン。その二匹がつがいになっているけど、その上にさらに金色のドラゴンがいるんだって……」
『そうだな。私よりもさらに暗い黄色みたいな身体を持っているとか。そのドラゴン……名前は確かファーレアルとかいったな』
つまり、エンヴィルーク・アンフェレイアという世界はその三匹のドラゴンたちによって創られた、このヘルヴァナールという世界と双璧を成す世界の話らしい。
しかし、そこでルディアが挙手をして質問する。
「あれ……でもちょっと待ってください。ならどうしてそのファーレアルというドラゴンさんは、そっちの世界に自分の名前をつけなかったんですかね?」
「僕もそこは気になりますね。何か事情があってのことなのでしょうか?」
マルニスも少なからず興味はあるようなのだが、だからといって期待する答えが返ってくるとも限らない。
事実、グラルバルトも『これは言い伝えでしかないのだが』と前置きしてからその答えを口に出し始めた。
『黒いドラゴン……私たち七匹のドラゴンたちのリーダーなのだが、その黒いドラゴンの先祖がファーレアルと揉めたらしい。そしてファーレアルは別のその世界を創ったのだが、揉めたことがきっかけで創ったというのがわかると恥ずかしいから、あえて自分の名前はつけなかったそうだ』
「そうだったんですか……そのオスのドラゴンさんもいろいろ考えた上の話だったんですね」
しかし、そのルディアの呟きにグラルバルトは首を横に振った。
『いや、ファーレアルはメスのドラゴンのはずだぞ』
「えっ、そうなんですか?」
『それは某も聞いたことがあるな。まあとにかく、その黒いドラゴンとファーレアルが揉めたことで二つの世界ができた。そして今、その二つの世界をまたにかけての事件がこうして起こっているということだ……』
とにかく、セバクターとエリアスがこちらのヘルヴァナールに渡ってきたというだけでも前代未聞の大事件であり、向こうの世界の看視者であるエンヴィルークとアンフェレイアのドラゴンたちは何をしているのだろうかと疑問を抱かざるをえない、こちらの世界を看視しているドラゴンたち。
しかし、その話についてはセバクターとエリアスが衝撃の事実を伝える。
「それなんだが、実は俺たちはそのエンヴィルーク様とアンフェレイア様に頼まれてこっちの世界に来たんだ」
『何だと? それは本当か?』
「そうだよ。僕たちはそのレイグラードを取り戻しにこっちの世界に来たんだよ。そして、それを持ち出したと思われる精霊も倒しにきたのさ」
次々と明かされる事実に、ルギーレの思考はもはや追いつかなくなってきていた。
しかし、それはルギーレ以外のヘルヴァナールの人間やドラゴンたちもまた一緒だった。
「精霊って……もしかしてルギーレたちがこのメルディアスの地下で封印を解いたとかっていってた、男の人のこと?」
「そうだよ。あそこで僕のアディラードを使って一気に倒そうと思ったのに、あの魔術師に邪魔されちゃったよ!!」




