550.最後の勇者
マリユスのその声と同時に、ニルスとマリユスを含む騎士団とギルドの連合軍とパーティメンバー六人の戦いが幕を開けた。
ルギーレは目の前のマリユスの身体を両手で突き飛ばし、そばのニルスに前蹴りを繰り出して吹っ飛ばしておく。
更にその後ろではセバクターがマルニスとセルフォンがいる部屋に繋がるドアを閉め、そちら側に連合軍を進ませないようにする。
幸い、戦える場所は人間が百人縦に並んでもまだ少し余るほどなのでかなり広い。
六人では相手の数を考えるとかなり不利なのだが、そこは逆に考えてみると少人数の機動力を活かして相手の懐に潜り込んで倒しやすい。
例えばこっそりと部屋の端に移動したレディクとエリアスが得意の魔術、それから弓を引き絞って敵の視界の外から的確に矢を撃ち込んでいける。
ガルクレスとヴァラスはそれぞれロングソードと槍を豪快に振り回し、多数の敵を一気に薙ぎ倒せる。
「おらおらあ、死にたい奴からかかってこいよお!!」
ガルクレスの雄叫びが上がっている場所から離れた所では、セバクターが歴戦の活躍を感じさせるその冠絶するほどの動きで敵を斬り裂いていく。
敵は大人数で確かに有利……に見えるのだが、これだけの広さがあって戦うとなるとなかなか役割分担も行き届かないし、ギルドの連中はセバクターと装備が似ている者も結構いるがゆえに、敵と味方を間違えて攻撃してしまうのを恐れてなかなか踏み出せない。
「ふん……この世界の戦士たちっていうのはこれほどの強さしかないのか?」
セバクターも、自分に臆している敵たちに対して鼻で笑ってしまうほどの余裕がある。
加えて、この地下の部屋に壁のランプは余り設置されていないので、部屋全体がそれなりに薄暗いというのもそれに拍車をかけている。
大人数であることが、決していい方向ばかりに傾くわけではないのだ。
その一方で、せっかくセバクターが閉めてくれたはずのドアをぶち破ってルギーレがその部屋に飛び込む。
だが彼は自分の意志で飛び込んだわけではなく、戦っている時に横っ腹にマリユスの強い前蹴りを受けてそのまま吹っ飛ばされたのだ。
「……これで俺たち三人以外に邪魔者はいねえ。ケリをつけようぜ!!」
マリユスがドアの向こうに背中から飛び込んだルギーレに続き、ニルスもその後ろからやってきてドアを閉める。
そう……三人しかいないということはルギーレが誰からの援護もない状態で、この二人の強敵と闘わなければいけなくなってしまったのだ。
「ぐっ……そういえば、何でここにあんたら二人がやってきたんだよ? まさか魔術研究所が襲われたっていうのを聞いたのか?」
蹴られた脇腹をさすりつつ立ち上がるルギーレの質問に、ニルスは頷いて答える。
「ええ。あの塔からメルディアスに戻ってきた時に、私たちはちょうどその話を聞きましてね。だから集められるだけの人員を集めてここにきたんですよ。夜でしたから集められたのは百人ぐらいだったが、それでもあなたたちを倒すのなら十分というわけです」
「そして、ここでお前は俺たち二人に殺されるってわけだ!!」
マリユスがそういうと同時に、二人ならではのフェイント戦法なのか先にニルスがロングソードを突き出してきた。
ルギーレはその瞬間、反射的に身を屈めて後ろ手に地面に両手を着き、地面に着いたその手を踏ん張ってバネにして身体を前に押し出す。
真っ直ぐ……というより、やや斜め上に伸ばしたその足が蹴ったのはニルスの足。
ルギーレが低い体勢から攻撃できるなら、そしてロングソード使いの方が相手ならギリギリこちらの間合いに入ることもできるので、相手の足を狙わないわけがなかった。
「ぬお!?」
いきなりのトリッキーな動きにニルスは対処し切れず反応が遅れ、足を取られて背中から後ろに倒れ込む。
「くっそ!」
そのニルスの様子に反応したマリユスが即座にバトルアックスを振るう。
バトルアックスが地面すれすれを薙ぎ払いにかかるが、ルギーレは当たらないようにレイグラードによって向上した身体能力の宙返りで回避。
その横からニルスのロングソードが突き出されるので、それを回避しながらニルスの腹に強烈な膝蹴り。
更に前蹴りでニルスを吹っ飛ばす。
だが入れ違いにマリユスのロングソードが再び襲いかかるので、限界まで上体を反らして回避。
(ちっきしょう……片方をふっ飛ばせば片方がやってくる。これではいつまでたっても終わらねえじゃねえかよ!!)
ニルスのロングソードが突き出されるのでそれを横にずれて回避し、ニルスの側頭部に右足で蹴りを突っ込む。
次にマリユスのバトルアックスが襲いかかるが、同じく横に回避してからの右の高い蹴りから左回し蹴りで彼の頭目かけて二連撃。
バトルアックスの間合いの内側に入り込めば、リーチのあるその武器だと取り回しが逆に利かないのでルギーレは一気に決めたいと考えていた。




