549.思わぬ提案
そんなマリユスを再び羽交い絞めにしながら、ニルスはとんでもないことを言い出した。
「私たちの仲間を殺したというのは、こちらにとっては到底受け入れがたいのが事実です。そこであなたに機会を与えましょう」
「機会?」
いきなり何を言い出すんだ。一体それはどんな機会なんだ。
内心でドキドキしながらルギーレがそう思っていると、ニルスがその機会を口に出す。
「あなたと後ろにいる仲間たちがベティーナの代わりに私たちの仲間になる。それが条件ですよ」
「は?」
唖然とするルギーレをお構いなしに、ニルスは条件の説明を続ける。
「正直な話、あなたを仲間に加えるというのは私も悩みます。ですがこのマリユスとあなたはもともと味方同士です」
「……まあ、そりゃそうだけど」
「それに、あなたはレイグラードというその聖剣を持っている。とんでもない威力があるのも知っています。それを私たちのために使うというのであれば、今までのことはすべて水に流しましょう」
そんなとんでもないことを言い出したニルスに、ルギーレは「ふぐぅ」と吹き出した。
「あんた、相当おめでたい頭してるんだなー。だって、今まであんたたちに追いかけ回されて殺されそうになっていた人間が……しかも、その抑えつけられているその男からは、絶対にこれ以上ないぐらいの恨みを買っている人間が、どうしてあなたたちの仲間になれると思うんだ?」
自分たちの仲間であったはずの人間を。
それも、マリユスの恋人まで殺しているので残る勇者パーティーの人間はマリユスだけということになる。
その状況を考えれば少しはわかると思うんだが……とルギーレは自分の意思を示す。
「まぁいいや、そっちの提案に答えるのであれば俺の答えはもちろん……いいえ、だ」
断りの返事をしたルギーレは尚も続ける。
「それに、そっちの勇者様であるマリユスから恨まれているということは、いずれ俺がどこかで殺されるかもしれないだろう。もし殺されないにしても、腕の一本や足の一本斬り落とされるぐらいじゃ済まないぐらいの恨みを、もう既に俺は買ってしまっているわけだ。ということは、俺にとってもそこまで恨まれて憎まれてトラブルになるリスクの高い奴らの仲間になる、という選択肢は有り得ない。俺はまだまだ死にたくなんかないんだ。だからキッパリとその話は断る。これが俺の答えだ!!」
もしこれが仮に舞台の台本になると、凄い長文になりそうなセリフをルギーレが言い終える。
すると、一つ頷いたニルスは羽交い絞めにしていたマリユスを解放して、腰に吊ってある愛用のロングソードを引き抜いた。
「ならば仕方ありませんね。ここの地下の研究施設の存在、それから遺跡のことを詳しく知られてしまった以上、あなたたちが私たちの仲間にならないというのであればこちらとしても情報の漏洩をさせるわけにはいきませんから。あいにくだが機密保持のためですよ。恨まないでください」
その横ではマリユスがロングバトルアックスを構えて、殺気が満載の視線をルギーレに送りながら今にも飛びかかってきそうな雰囲気を醸し出していた。
更に後ろの方からも、ニルスとルギーレの会話を聞いていた騎士団員とギルドの冒険者たちの連合軍が、今までの長い話がやっと終わって待ちわびていたかのように、勢いよく武器を構える音が聞こえてくる。
「俺のメンツを潰すだけじゃなく、俺の女のベティーナまで殺しやがって。さっき言った通り、俺はお前を絶対に許さない。例えニルスが許してもだ。俺たちを敵に回したことを後悔して死ね。俺のこの斧にズタズタに細切れにされて、死んでいけることに感謝してもらいたいもんだぜ、この役立たず野郎が!!」
そんな二人のセリフに、ルギーレはレイグラードを構えながら答える。
「そんな感謝の押し売りは止めにしてもらいたいもんだぜ。それに俺の名前は役立たずじゃねえ。pれは……ルギーレ・ウルファートだ!!」
その構えを取ったルギーレの後ろでは、ルギーレの様子を見てガルクレスとセバクターを筆頭にパーティメンバーもそれぞれ武器を構える。
交渉決裂となった今、もう戦うことが決定したからだ。
しかし、始める前にルギーレにはまだ一つだけ気になることが。
「あんたたちの部下はどうなる? ここで色々と話を後ろで聞いていたわけだろう、まさに今……」
「もちろんかん口令は敷かせてもらいますよ。一部の者しかこの研究施設の存在を知らせないつもりでしたが、こうなってしまった以上止むを得ません。それよりも気になるのは、あなたたちがこの先でどう出るかですが、結果的には人数差で私たちがあなたたちを倒すのが見えていますね」
「へぇ……そうかい。ここの部屋の広さはかなりあるから、戦いやすいといえば戦いやすいな。ならさっさと始めようぜ。これ以上喋るのは俺も疲れるからな」
「それはお互い様じゃねえか。俺たち全員が相手だ。……おい、こいつら全員やっちまえ!!」




