534.作戦開始
レディクとルギーレは渋い顔をするものの、ガルクレスは副騎士団長として働いている時から魔術師たちの行動をいろいろと聞いていたからこそ、それも踏まえての作戦提案だった。
「それは確かにそうだな。だけど、どっちにせよ追いかけ回されることになると思っている」
「何で?」
「魔術師ってのは基本的に夜型の行動をする奴が多いんだよ。勉強だの研究に没頭して寝るのも忘れて、それで朝方になってから寝るもんだから夜中起きてたりするんだ」
だからこそ、昼間に行動して騎士団とかギルドの連中に見つかって派手に動き回るよりも、夜中に寝静まった町の中の研究所で魔術師たちが研究している時に忍び込めば、何をしているのかもわかるんじゃないか、と考えるのがガルクレス。
「……そう上手くいくのかねえ……?」
作戦としては悪くはないのかもしれないが、今はまだ忍び込むにしても敵の情報が足りなさ過ぎるのでもっと情報収集を頼みたいもんだとルギーレは自分の考えを告げる。
それを聞いたセバクターたちは、よしわかったと納得して徹底的な情報収集を約束した。
「今回、情報収集している時には何もなかったんだろう?」
「とりあえず今の所は追われたりとか目をつけられたりはしていないと思うが、あの地下水路の見張りを気絶させてしまったっていうのが気がかりだな」
「ふうむ……だったらまだ大丈夫かもしれないってことか」
ガルクレスたちのやらかしたことがどれだけ向こうに知れ渡っているかがポイントだろうから、それを考えると朝からさっさと情報収集してこの宿屋に戻ってきた方がいいだろう、と考えるルギーレ。
「じゃあそっちはそれで任せるけど、魔術師たちの行動についても聞き出せるだけ頼む」
「わかった。それと魔術研究所ももっと調べてくるよ」
情報収集チームの三人にルギーレはそう頼み、いよいよやるべきことはこれで決まった。
後はこれが上手くいくかどうかだ。
そして顔が向こうに割れてしまっているメンバーは宿屋で待機することに。
「危ないと思ったらすぐに戻ってきてくれよ」
「任せておけ」
ガルクレスの忠告にセバクターが片手を上げて反応し、彼とエリアスと道案内役のレディクの三人は夜の町中に消えていった。
「さて、それじゃ俺たちは先に飯を食って待つとするか」
腹ごしらえをしなければ行動に必要なエネルギーも補給できないので、宿屋の中で大人しく待ってようと考えるルギーレだったが、思いがけない展開をガルクレスがもたらすことに。
「おい、ちょっと待て」
「ん?」
「あんた、これから先の状況をわかっているのか?」
「……んん?」
そうやっていきなり問いかけられても、何のことだかよくわからないので首を傾げるしかないルギーレ。
それに対し、ガルクレスは自分の腹の中にあるルギーレに対する気持ちをぶつけ始める。
「この先、俺たちは帝国を敵に回しての最終決戦になるだろうと俺は読んでいる。現にもう、あんたの仲間だったっていうベティーナ……だったか? その女をあの塔であんたが殺してしまったんだからな」
「ああ、それはわかっているよ」
セバクターたちが再度情報収集して戻ってくるまで残りの三人は宿屋の中で色々な……主に異世界について話をしながら時間を潰していた。
「でもまさか、あのエリアスってのがセバクターの知り合いだったなんて驚いたぜ」
「私はそれよりも、エリアスという彼が君を一度裏切ったのかと思いきや、どうやら帝国側の腐敗について調べていたのは予想外だったな」
自分たちの敵だと思っていた、エリアスという黄緑色のコートを着込んだ淡い金色の長髪の男。
なんと、あの男もセバクターと一緒の世界からやってきたというのである。
「異世界ということに関係して、あの男もセバクターと同じで追いかけているのはディルクという魔術師だと言っていたが……それとあの時図書館で俺を襲ってアイテムを奪う必要があったのか?」
「確か、敵の動きを探るのに向こうの味方のフリをしなければならないから、そうやって裏切ったフリをしていたという話だったな」
それだったらまだ話はわかるのだが、あの魔術師を追いかけて最終的にどうするつもりなのだろうか?
ルギーレたちと一緒に行動するのが目的なのであれば、別にこの国でなくてもいいはずだ。
それにルディアもいるし……と考えてみれば、ルディアたちに今の待機時間を使って報告しておくことに決めたルギーレ。
『ルギーレ……? 何か進展はあった?』
「ああ、それがセバクターに絡むことなんだけどよぉ……」
ルギーレが前回の連絡の後から今までのことを話すと、真っ先にルディアの口から出てきたのはこんな疑問だった。
『でも不思議よね。セバクターさんはアーエリヴァを囲む形で展開している魔術防壁を、どうやって破ってそっちの国に入ったのかしら?』




