533.探索先
「それはそうかもしれないが……じゃあカインとティレジュと戦ったあの図書館にあった、何かの破片みたいなのは何なんだ?」
「それは……うーん、何だろうなありゃあ」
そう言いながら、ガルクレスはその図書館でのいざこざを起こした張本人であるエリアスに視線を向ける。
しかし、エリアスも破片についてはよくわかっていないらしい。
「よくわからないけど、あんなご大層な場所に置いてあったものなんだからやっぱり大事なものだとは思うね」
「やっぱりそうなるよな。それにこのペンダントだって、まだそのアイテムの仲間だって決まったわけじゃないと思うが……でも、俺が疑問に思っているのはそこじゃないんだ」
「えっ?」
「俺がこうしてアーエリヴァ各地を旅してきたんだけど、今までずーっとどこでもマルニスとセルフォンの手がかりがないままなんだよ」
そのルギーレの発言に、他の五人は程度は違えどハッとした表情になった。
そう考えてみると、確かにマルニスとセルフォンについての情報がどこからも出てこないのはおかしい気がする。
そのことを他の五人に話してみると、最初に考え込んだのはセバクターである。
「そうか……セルフォンっていうのは確か灰色の大きなドラゴンだったな。マルニスっていうのはガルクレスたちの上司で人間だから見つかりにくいのはわかるが、そんな大きなドラゴンがそうして見つからないっていうのも不思議な話だ」
ルギーレは事前に、セルフォンというのは人間の姿になることができる不思議なドラゴンなんだ、とガルクレスたちに説明もしている。
しかし、人間の姿でウロウロとどこかをさまよっているのであればさらに見つけにくくなるから情報が出てこないのもそれはそうか……とも思ってしまう一行。
「でも今の状況で考えてもわからないな。とりあえずそのペンダントはあんたに預けておくから」
「わかったよ」
とりあえず納得したところで、改めて今後このメルディアスでどうするかを決める。
「とにかく、あの地下にある黒い扉の先を見てみたい」
「それはそうだが、問題はどうやってあの扉の施錠を解除するかだな」
「あの扉の横に、何かを差し込むような穴があったからそこに何かを突っ込むんじゃないのかな?」
ルギーレの要望にセバクターとヴァラスが答えるが、残る三人の要望はまた違うものらしい。
「それもいいんだけど、地下にあったあの実験施設を僕はもっと調べた方がいいと思うよ」
「俺も賛成だ。あそこで何が行なわれているかを知ることで、帝国がこれまで何をしてきたか、そして何をしようとしているのかがわかる気がするから」
「俺は……住民がいなくなるってのをもっと調査した方がいいんじゃねえかって思う。それこそマルニスやセルフォンの手がかりになるかもしれねえだろ?」
レディクとエリアスは地下の実験施設の調査を求め、ガルクレスはアイテムの奪還を試みているらしい。
しかし、それにはタイミングが重要だとガルクレスが考える。
「その三つが俺たちの目的だな。じゃあとりあえず目的の順番を決めよう。扉の先を調べるのは後回しでも大丈夫そうだから、住民の失踪調査は二番目にやりたいと思う」
「そうなると騎士団やギルドが関わってくるのは間違いないと思うが、最終的には城に乗り込む気か?」
冷静なセバクターの声に対し、ガルクレスは首を横に振った。
「俺もそこまで無鉄砲じゃねえよ。敵の本拠地の城に乗り込むんだったらもっと人員が必要だし、俺たち六人だけじゃとても太刀打ちできねえからな。でも、まだやりようはあるだろう」
「やりようって?」
レディクの問い掛けに対し、ガルクレスはグルリとパーティメンバーを見渡した。
「あの地下水路は道が繋がっていない……というよりも、地下の実験施設みたいな場所があっただろう。その上は魔術実験場だから、そっちに忍び込むんだよ」
「……そっちも危険な気がするな」
魔術師たちが数多くいる実験場に忍び込むだけでも大変そうなのに、そこに乗り込むだけじゃなく地下への道も見つけなければならないということをガルクレスは言っているのだ。
その作戦も突発的ではあるがガルクレスが思いついていた。
「だから、俺たちの知名度を利用するんだよ」
「知名度……そうか、知名度か」
その「知名度」の意味に一番最初にピンときたのはセバクターだ。
「もしかして……俺たちは悪い意味で名前が知られているから、それを利用するってことか?」
「それはそうだが……危険過ぎやしないか?」
「でも、それならそれでやるしかないんじゃねえのか?」
エリアス、レディク、ルギーレの三人も彼の言いたいことに気がつくが、レディクとヴァラスの考えは違った。
「言いたいことはわかるよ。わざと騎士団やギルドの連中に追いかけ回されることでそっちに注意を向けさせている間に、魔術研究所に忍び込めって話でしょ? 結構無茶な話だと思うから僕は反対だね」
「そうそう。捕まるリスクも高いし……仮に私だったら夜中にそーっと忍び込んだ方がいいような気がするがな」




