531.壁の向こう側
「うっ……」
「うお、何だこりゃあ!?」
通路を真っ直ぐ進んで突き当たりにあるドアを開けた部屋の中には、今までの湿気がたっぷりと感じられる雰囲気を醸し出している地下水路とはうって変わって機械の設備や何かの装置、何かの生物の薬品漬けのようなものまで、得体のしれない不気味なものが多数設置されている研究所のような場所があった。
「え、うわ……これって人間!?」
「人間が変な液体の中に入っているぞ?」
「何なんだよ、ここは……」
「……まるで秘密基地みたいだな」
ここは一体何の施設なんだ? と一行は疑問に思いながら薄気味悪いこの部屋を抜けて、奥に見える重厚な造りのドアから先に進む。
その先には長い廊下があり、幾つものドアが両サイドに並んでいる。
(確かめてみるか)
若干面倒だとは思いながらも、一つ一つのドアを開けて中に何があるのかを確かめてみるパーティメンバー。
どの部屋も造りは一緒で、まるで簡素なあばら家を思い出させる造りだ。
そして共通しているのは、どの部屋でも同じような何かの実験や研究をしているような雰囲気だった。
(本当に何の研究をしているのか……内容を疑うな)
ルギーレは顔をしかめながらも他のメンバーとともに全ての部屋を見て回り、最後に自分が入ってきた方とは反対側の突き当たりにあるドアを開けて、更に廊下の先に進む。
すると、今度は水が流れる水路の光景が目の前に戻ってきた。
「あっ、ここからはまた水路なんだね」
「ということは、このドアの中が何かの研究とか実験をしているって場所か?」
水路に戻ってきたことで、不気味な雰囲気の場所から抜け出せたと安堵するレディクと、ドアの内側に広がる部屋を振り返って疑問の声を漏らすガルクレス。
しかし、水路を縫うように造られている通路はまだ先がある。
「一旦この先に何があるのかを見てみよう」
とにかく先に進むと決意したルギーレは、万が一足を滑らせて水路に落ちてしまわないように注意しながらパーティメンバーとともに進んで行く。
この辺り一体は別の部屋に繋がるドアは見当たらないが、水路の奥の方を見てみると一箇所だけ大きな両開きの黒いドアが鎮座しているのが見える。
いかにも怪しい場所だ。
「とりあえずあそこまで行けば何とかなるか?」
「ああ、行くだけ行ってみよう」
ヴァラスの後押しを受けてルギーレは進む。
というか今の自分にはそれしかできそうにないので、何もなければまたあのぶち壊した壁の向こうに逆戻りするか、それ以外の別のルートを見つけて調べるか……と決めた。
「別のルートに向かったとして、どこに出口があるのかはその時また見つけるしかなさそうだがな」
セバクターのその呟きを聞きつつ、願わくばこの先でマルニスとセルフォン会うことができるような展開であって欲しい……と願いながら、ルギーレは地下水路の通路をそのドアに向かって歩いていく。
だが、やっぱり都合よくはいってくれそうにない。
なぜならそのドアの前までたどりついたはいいものの、今度は明らかにカギがかかっていて開いてくれそうにないからだ。
そのドアの横には大きな長方形の穴が開いており、おそらくここにカギか何かを差し込むのだろうが、あいにくそんなものは誰も持っていない。
「何だよ……結局引き返すしかないのかよ!!」
がっくりと落とされたガルクレスのその左肩に、無言でセバクターの右手が置かれて慰めてくれた。
ここまで来て結局こうなってしまうのかとメンバー全員に落胆の色が浮かぶが、それでもこのメルディアスの地下にいつの間にかこんな場所が造られていることがわかっただけでも、かなり大きな収穫といえるだろう。
「それなりに大がかりな施設だと思うんだが、やっぱりこれは騎士団に協力者がいなければ成立しないということになるのか?」
「そうだろうな。それしか考えられないよ。しかしこれだけの施設を造るとなるとそれなりの人手が必要になってくるだろうし、金だって時間だってそれなりに用意しなきゃいけないでしょ」
セバクターの考察にエリアスがそう返答する。
しかし、ここでいくら調べてみてもこれ以上何か話が進展しそうにない気がしたので、一旦パーティメンバー一行は地上に戻って、町外れにある宿屋で寝泊まりすることにした。
ここは騎士団とギルドの本拠地といってもいい帝都メルディアスなので、街中の宿屋に泊まるわけにはいかないからである。
それが例え、騎士団の副団長であるガルクレスや貴族のレディクがこうしてパーティーメンバーの中にいるとしても、どこで誰がどのように内通しているかわからないからということもあって。




