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51.胡散臭い医者

 正直な話をすれば、自分をゴミのようにあっさりと捨てた勇者パーティーが捕まって胸の内がスッとしているルギーレ。

 しかし、一緒に世界中を冒険してきた仲間だったというのもあってか同情の念も少なからず浮かんできている。

 そんなやるせなさというか、悶々として気持ちを抱えながらもルディアに案内されてついていった先には、どう見ても町医者としか思えない小さな建物があった。


「こ……ここ?」

「ええ。お腹が痛くなって駆け込んだ時に、霧に囲まれた島を見つけたって話をしてくれたその例のお医者さんが診療を担当している場所よ」


 やっぱり今考えても胡散臭い。

 町医者なのに、帝国の皇帝ですら知らない情報を知っているらしいというのはルディア伝いでの話なのだが、実際に会ってみて話を聞いてみるまではルギーレも全然信用できない。

 とにもかくにもその医者に会うべく、二人は建物の中へと入っていった。



 ◇



「……ああ、そなたか。確かずいぶん前にここに来た魔術師の人だったな」

「あれ、覚えているんですか?」

「そうとも。患者さんの情報はすべてここに記録してあるんだ。医者なら当然だろう」


 開業医として二階建てのうちの一階部分を診療所として使っているらしいこの男は、それなりに若く見えるのでなかなか優秀な医者なのだろうとルギーレは推測する。

 だが、人間としての本能がこの男から妙な違和感を覚えていた。


(何だろう、この男……見た目としてはどこにでもいそうな人間なのに……何か変だぜ?)


 その違和感の正体はわからない。

 あくまで本能としてそう思えているだけで、自分の気のせいかもしれない。

 見た目としては三十歳前後で、灰色の髪にこれまた灰色の瞳を持ち、上着もズボンも灰色でその上から白衣を羽織っている。

 見た目と、ただの町医者という立場からどう考えても北のほうにある謎の島の話がその口から出てくる気はしない。

 考えれば考えるほど頭が混乱しそうなルギーレに、悩ませる原因となっている医者の男が声をかけてきた。


「して……こちらの男とは某は初めて会うな」

「そ、それがし?」

「ん? 何か変なことを言ったか?」

「あ、いや……妙に変わった一人称を使うなって思っただけっすよ」


 そのかなり古めかしい一人称の存在は知っていても、まさか自分のことを「それがし」と呼ぶ人物に現実で出会うとは。

 ルギーレが一種の感動を覚えると同時に、医者のほうは苦笑いを浮かべた。


「ああ、それはよく言われる。まぁ気にしないでくれ。某は長いことこの一人称だからもう治らん。……それで、今日はこのルディア殿と一緒に何をしに来たのだ? そなたは」

「俺ですか? 俺はあなたに聞きたいことがあって、ここまで一緒に来たんですよ」

「某に聞きたいこと?」

「ええ。もうこの際だから率直に聞いちゃいますけど、北の海で霧に包まれた島を見つけたんですって?」


 その瞬間、医者の表情が変わったのをルギーレは見逃さなかった。


「……ああ、確かに某はその島を見つけた。だがそれを聞いてどうするつもりだ? まさかその島に行くつもりか?」

「あ、いや……そんなつもりじゃないんですけど、単純に気になったんですよ。この話って確かこのファルス帝国の皇帝陛下も知らないらしいじゃないですか。皇帝すら知らないような話を、どうして町医者のあなたが知っているのか俺はすごく疑問なんですよね」

「なぜ、か……」


 医者は座っていた木製の椅子から立ち上がり、窓の外を見据えつつこう言った。


「世の中にはあまり知らないほうがいいこともある。某はもっとそこのルディアに口止めをしておくべきだったな」

「え……私ですか?」

「ああ。うかつにしゃべらないほうが良かったな。とりあえずこのことは他言無用としておいてくれないか」


 そう前置きして医者は話し始める。


「あの霧の島には何か重大な秘密があるらしいというのを、某はアーエリヴァ帝国に住んでいる武道の講師を務めている男から聞いたんだ」

「アーエリヴァ?」

「ああ。でもその男は仕事柄、自分より強いと認めた人間としか話をしない」


 そして、医者はルギーレとルディアにとって屈辱的な一言を言い放った。


「こう言っては悪いが、今のそなたたちの実力ではその男の足元にも及ばないだろう」

「なっ……そんなのやってみなくちゃわからないでしょーが!?」

「いいや、わかる。ルディアはまだしも、実力が伴わなくて勇者パーティーを追放されたそなたはまず自分の強さを上げることだな」

「え?」


 あれ? 俺はこの男に自分が勇者パーティーの一員だったということを話したっけ?

 いや、話してはいないはずだ。

 なのになぜそのことをこの男が知っているのだろうか?

 ルギーレの目がキョトンとするのを見た医者は、続けて驚きのセリフを発した。


「いつまでもその剣に頼っているだけの戦い方じゃあ、いずれどこかでつまずく。伝説の聖剣ももっと良い使い手に出会いたいと思っているかもしれないな」

「な……何で? 何なんだよあんた? 何でそんな……俺が話してないようなことまで知っているんだよっ!?」

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