530.思わぬ収穫
「……あれ?」
「どうした?」
「いや、ちょっと待った……ここでほら、何かが光ったんだが……」
ディルクの消えた場所でキラリと何かが光ったのが見えたルギーレは、その部分にゴソゴソと手を伸ばす。
すると、床の石の隙間から覗く細い鎖に気がついた。
「ペンダント……?」
どうやらディルクが逃げて行った時に落としてここにハマってしまったものらしいが、こんなものをあいつは身に着けているのか? とあの男のことをよく知っていたであろうセバクターに尋ねるルギーレ。
だが、セバクターも首を傾げた。
「いや……俺はそんなものを着けているのは見たことはないぞ?」
その返答に、今度は違う質問をして確かめたいことがあった。
「あんたが最後にこの男に出会ったのはいつだ?」
「確か……五年前だな」
「五年前か。それならこんなアクセサリーを持っていても不思議ではないんだが……五年持っているにしてはやけに奇麗じゃないか?」
最近手に入れた物なのかもしれないと考え直すルギーレだが、その様子を見ていたエリアスが別の話を持ち出した。
「それ……かなりの魔力が含まれているね」
「えっ、これにか?」
「ああ。確証はないけど、あの最初の遺跡で見つけた剣とか、次の遺跡で見つけた盾も凄い魔力を持っていたし、それからも大きな魔力が感じられるよ」
だとすると……と全員の視線がルギーレの手の中にあるペンダントに注がれる。
「これ、もしかしてあの塔の……」
「可能性は高いな」
冷静に呟くセバクターの声に、「ここに戻ってこなかったら、危うく大事なアイテムを見逃すところだった……」とルギーレはホッとした声で呟き返していた。
「何か、どうもありがとう」
「……ああ」
別にこれを見つけようとして戻ってきたわけではないので、偶然って本当に凄いし怖いなと六人全員が思っていた。
その思わぬ収穫を手に、六人は地下水路をあのルギーレのスマートフォンに記録した地図を頼りに歩き回ってみたが、物事はそうそう上手くいかないらしい。
「うーん、やっぱり地下水路で他に怪しい所は見当たらないな」
「でもさ、この地図でいうとどう考えてもこの先に通路があるはずなんだよね」
頭をガリガリと掻きながら悩むガルクレスの横で、目の前にそびえ立つ冷たい灰色の石造りの壁を見ながらそういうエリアス。
地図によればこの先にも通路があるはずなのに、目の前には壁しかない。
ゴンゴンと叩いて壁が動くかどうか調べてみたり、何かスイッチらしきものが周辺にないか探してみたりしたが、どうやら本当にただの壁のようだ。
「埋まってんのかな、ここ……」
行き止まりまできてしまったので、これは戻るしかないだろうと今は諦めることにする。
「仕方ない、どこか別のルートがあるはずだから一旦外に出よう」
あの気絶させている見張りに意識を回復されたら、ここに部外者が立ち入ったことが騎士団員に広まってしまうだろう。
「あーあ、ここまできたのにこれかよ……くそぉ!!」
引き返さなければならない悔しさで、人間には出せないレベルのパワーでその壁にミドルキックを突っ込むガルクレス。
そのキックによって、カァーン……と石造りの壁にしては妙に甲高い音が通路にこだました。
「……何か、妙に音が軽くないか?」
「言われてみればそうだな」
音について疑問を口に出すエリアスにヴァラスも同意する。
この石造りの壁を叩くと普通は「ゴンゴン」と重厚感溢れる音がするはずだし、現に他の個所を叩いてみたらそういう音がする。
なのに、ここだけ妙に音が軽いというのは違和感を覚える。
「もしかして、この壁……思ったより薄いんじゃないのか?」
「そうかもしれない。もしかして、ここを壊して先に進めるのか?」
そう考えたセバクターとガルクレスを筆頭に、六人全員が壁に向かって物理、魔術問わずに色々な攻撃を仕掛けてみる。
すると……。
「お……おっ!?」
攻撃を当て続けることによって壁に段々亀裂が入り始め、ついにはその向こうにある通路が姿を見せ始める。
壁が崩れ始めたことでテンションが上がる六人は、更に攻撃のペースを速める。
「はぁ、はぁ、はぁ、後もう少しだ!!」
「うっしゃあ、おりゃあああっ!!」
ルギーレが魔力を乗せた渾身の一撃を繰り出せば、それによって壁がガラガラと音を立てて崩れた。
「よーし、これで引き返さずに済むぜ」
やり切った感情を顔一杯に見せ、ガルクレスがノッシノッシとパーティの先頭で壁の向こう側に歩き出す。
「……そうか、ここの仕掛けはこうなっていたのか」
それに続くルギーレが壁の向こう側で、この壁がなぜこんなに薄かったのかを把握する。
乗り越えた壁の先に現れた通路の横に、上下の矢印が描かれているスイッチがあるのだ。
その上方向の矢印が描かれているスイッチを押してみれば、ウイイン……という作動音こそするものの、周囲にはどこにも変化がない。
この壁……いや、本来は壁ではなくて一方からしか開けられない機械装置だろう、と見当がついたルギーレは納得して他のメンバーとともに先に進む。
だが、そのドアの先に待ち構えていたのはパーティメンバーにとって衝撃過ぎる残酷な現実だった!!




