528.敵なのか? 味方なのか?
顔面の痛みと背中の痛みをそれぞれ右手と左手でさすって逃がしつつ、ルギーレがガルクレスに問いかける。
すると、彼からこんな返答が。
「俺たちは今からここを調べに向かうんだ。この地下に大きな水路があるって話を住民から聞いたんだが、騎士団員を交代制で見張りとして立たせて立ち入り禁止にしているらしくてな」
「そうなのか?」
「ああ。表向きは子供が間違って入ったりしないように見張りを配置しているらしいんだが、それだったら騎士団員でなくてもドアに鍵をかけておけば済む話だろう? だからこうして夜になって見張りの気が緩んだ所で、調べるために入ろうとしていたんだが……」
そのガルクレスのセリフで、そういえば見張りがいたはずなのにここにこうやって入って来られるのか? と新たな疑問が生まれる三人。
見張りについてのその疑問をセバクターが訪ねれば、答えたのはセバクターではなくレディクだった。
「あれ、その見張りはどうしたんだ?」
「見張り? 見張りなら彼が気絶させた後に僕の魔術で眠ってもらったよ。立たせるのに苦労したけど……」
レディクが指を差す先には、彼のいう通り騎士団員が立ったまま昏倒して眠っているではないか。
「だからさっさとこの中を調べよう。帝都でまだ調べていないのはここと城だけだからさ」
そういうレディクだが、レディクが指差す方向を見てヴァラスが首を横に振った。
「ちょっと待て。なぜその男が一緒にいる?」
「あ、これは……」
「おい、てめぇこの野郎!! 何だって俺たちにまた近づいてきた!?」
ルギーレが怒鳴りたくなる気持ちもわかる。
なぜなら、そのレディクの指差す先に立っていたのは、彼が忘れたくても忘れられない男だったからだ。
「エリアス……」
「あの時は悪かったね。でも、こうするしかなかったのさ」
図書館の地下でルギーレに目つぶしを食らわせ、せっかく集めたアイテムを奪って逃げて行ったのは記憶に新しい。
その彼がなぜ、ガルクレスとレディクと一緒に行動している?
そして彼の姿を見て、驚きを隠せない人物がまだ他にもいた。
「え……エリアス?」
「あー、セバクターも無事でよかったよ」
「ん? え? あれ……知り合い?」
どうやらエリアスとセバクターも顔見知りのようなのだが、今ここで騒いでいたらせっかく眠らせた見張りが起きてしまう危険性がある。
詳しい話はまた後にして、ガルクレスとレディクはこの地下に乗り込もうとしたのだが、そこにヴァラスから待ったがかかる。
「ううん……ここは何もなかったぞ」
「え?」
「どうやら別の出入り口があるみたいなのよ。だからその出入り口から進まないと、まだ未踏破の場所に行くことができそうにないんだ」
「おいおい……そりゃねえよ。せっかく入り口の錠前を俺の武器でぶち壊して、エリアスが扉を蹴り破ったってのに」
「……蹴ったのかよ。ぶち壊すまではいいが蹴ることはねーだろ」
そのせいで俺はドアに激突する破目になったんだぞ、と小さくルギーレは漏らしてしまった。
しかし、見張りが起きてしまう前にやはり自分たちの目で何があるか見ておきたい、とガルクレスが言い出したので、結局地下水路に逆戻りする展開に。
そうなると当然、ここしか出入り口がないはずなのにどうやってここにルギーレ側のメンバーが入ったのかの疑問を説明しなければならなくなる。
「南の町からここまで来るには明らかに時間が足りないからな。何かがあったのは確かだから色々説明してもらおうか?」
歩きながらガルクレスにそう問われ、どうせこの先を調べたらバレてしまうのだし……と一種の覚悟を決めたルギーレは「ディルクが逃げたよ」と呟いた。
「……ん?」
すぐにはルギーレの言葉の意味が呑み込めず、ガルクレスの横にいるエリアスは目を丸くした。
「だから、ディルクがここで襲ってきて俺が撃退した。そうしたらあいつが逃げた。俺たちを殺そうとしてきたのを返り討ちにしたんだ」
「返り討ち……だと? 馬鹿な!?」
しかし、そんなエリアスの表情を見てもルギーレは冷静だった。
「馬鹿な? なぜそう思うんだ?」
「あ、あの男は……あの男には物理攻撃も魔術も効かないはずなんだ。強力な魔術防壁で守られているあいつの身体には、傷一つ与えられないっていう話は有名でさ。闇の魔術師と呼ばれる前は、それこそ「稀代の魔術師」とまで呼ばれた男だったんだが……君はあの男を倒したのか?」
歩きながらグイグイ詰め寄ってくるエリアスの声が地下水路に響くものの、簡潔に質問に答えるルギーレ。
「そうだ」
「どうやって!?」
「俺とあいつが戦って、あいつの逃亡によって俺の勝ちで決着した」
「いつ!?」
「あんたにドアごと蹴り飛ばされる前だよ。あいつの作り出した魔法陣で、俺たちは南の町から一気にここまでやって来たんだ」
「倒したって……どこでだ!?」
「この先……ほら、あそこだよ」
そう言いながら指を差すルギーレの前方には、あの壁画の部屋のドアが見えてきていた。




