527.さまよう三人
「おっ、おい、どこに行くんだよ!?」
走り出して自分たちの横をすり抜けたルギーレを追いかけて、他の二人も当然走り出す。
そんなルギーレの後に続いて、再びディルクと戦いを繰り広げた壁画の部屋に戻った一行。
「一体どうしたんだよ?」
「わざわざここまで戻ってきて、あんたは一体何をするつもりなんだ?」
不可解なその行動に次々と口をついて疑問が出て来る二人の前で、ルギーレはゴソゴソとコートのポケットからある物を取り出した。
それは……。
「良し、描くぞ!」
口の端に笑みを浮かべてそう呟くルギーレの手には、紙とペンが握られている。
「ヴァラスもいるけど、記憶だけでこの地下水路をさまようのはきついかもしれねえからこうして地図を少しでも描き写しておくのさ」
「ああ、それはいい考えだ」
ヴァラスもこの地下水路のことは知っているものの、全ての道を覚えているわけではないのでルギーレのその考えに賛同する。
そうして描き写しも済ませて地図を記録した一行は、その描き写した地図を見つつ今の自分たちがどこにいるのかを確認しながら歩き回る。
だが……。
「んー、広過ぎるからどこがどうなっているのかさっぱり……」
「歩いているのって今ここじゃないか?」
「いや、それだとあそこの曲がり角が一致しないだろ」
地図があってもなくても、この一行の地下水路探検に関しては大して展開に変わりがないようである。
それでも手元にこうして地図があるのとないのとでは、やはり安心感が段違いだと実感していた。
その安心感が、なかなか自分たちのいる場所を把握できない三人の足を進ませる切っかけになる。
「あ……ほら、今の場所ってここじゃないか?」
「おお、そうだな!!」
「あー、やっとこれで今の場所がわかったよ!!」
「長かったな……」
その切っかけが三人の足を動かして、ついに自分たちの居場所を特定する結果に繋がったのだ。
随分と長い時間この地下水路の中を歩き回っていた気がするのだが、今の自分たちがいる場所がわかった安心感が脚を中心とする身体の疲れを吹き飛ばしてくれた。
「ええと……ここから真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がって、そこから三つ目の角を曲がれば……これが階段で、ここで地図が途切れているからようやく俺たちは地上に出られると思う」
セバクターがそういうものの、それを横で聞いていたルギーレが先ほどの話を思い出した。
「それはいいんだが、ほら……この地下水路の出入り口には騎士団員の見張りがいるみたいだが?」
「あ……」
そういえばそうだった、と落胆するセバクター。
出入り口の騎士団員の見張りをどうやってやり過ごすかが、この地下通路から地上に抜けるルートの最終関門になりそうだ。
しかし落胆していても仕方ないので、三人はとりあえずその階段の前までやってきた。
「ここか……」
あの壁画の部屋の扉に比べれば随分と小さな、しかも材質も鉄ではなく木製の扉が三人の前に立ち塞がる。
本来であれば、こんな木製の扉は普通にそのまま開けて通り抜けるだけだが、外側にいるであろう見張りの存在が三人の足を止める。
「……強行突破も考えておこう」
後ろの二人を振り向いてそう呟いたルギーレに対し、頷きで肯定の意を返すヴァラスとセバクター。
それを確認したルギーレは意を決して、扉の方に足を踏み出した。
が、その次の瞬間に何も予備動作なしでいきなり手前に強く開いた扉が、ルギーレの身体をまるで風に吹かれた紙のように弾き飛ばした。
「ぶっほぁ!?」
吹っ飛んだルギーレの後ろに続いていたヴァラスとセバクターが巻き込まれる形で、一気に薙ぎ倒し状態になる三人。
今まで散々この地下水路を歩き回っていただけに、さすがに鍛えていてもその吹っ飛んできたルギーレを受け止め切れずに床に背中に叩き付けられる二人と、その二人をクッションにする形で床に倒れ込むルギーレ。
「あっ、あてて……」
「な、何だぁ!?」
「何なんだ……え、あれ?」
最初に扉の向こうの光景に気が付いたのは、身を起こすのが三人の中で一番早かったセバクター。
彼の目に映ったのは三人の人影。しかも全員に見覚えがあった。
その三人の方も、痛みに耐えながら起き上がる三人の正体に気がついたようだ。
「……あれっ!?」
「えっ、何であんたたちがここにいるんだ?」
「なぜここにいる? 南からこんなに早く来られるわけがないんだが……」
ドアの向こうから現れたのは、この帝都ランダリルで情報収集をしているはずのガルクレスとレディクだったのだ!
とはいえそう聞かれた三人の方も、何がどうしてこんな状況になっているのかを聞きたい気持ちが一杯である。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……俺たちのことは話すと長くなるからまた後で話す。その前に、どうしてここにあんたたちがいて、何がきっかけでこんな状況になったのか説明してもらえないか?」




