521.螺旋階段の戦い
それを聞いたルギーレの後ろのヴァラスも、既に武器を構えて臨戦態勢だ。
「どれぐらいの距離が離れた所から聞こえるんだ?」
「……いや、それがわからない」
「わからないって……?」
「さっきも言ったが、この先はどうも入り組んだ地下通路になっているらしい。だが……普通の入り組み方じゃなくて、どちらかというと単純な入り組み方になっている気がする」
「ちょっと何言ってるかわからないな」
どういった入り組み方が単純な部類に入るのかわからないルギーレが思わず口走るが、それを気にせずセバクターは続ける。
「ここは音の反響具合からすると、かなり深くまで掘られているのかもしれない」
「そんなに深いのか?」
「ああ。何の目的でそんなに深く掘ったかはしらないが、時折り風が吹き抜ける音も聞こえてくる。だから風の通りやすい入り組み方をしているんだと思う」
ルギーレの質問にそう答えたセバクターの横から、ヴァラスが一つの仮説を持ち出した。
「もしかすると、この地下通路ってあの塔と同じように吹き抜けの空洞になっているんじゃないのか?」
「吹き抜け?」
「そうだ。それだったらある程度は確かに入り組んでいるだろうし、風が通りやすい入り組み方っていうのも筋が通ると思う」
自分の確認形の疑問にそう返答するヴァラスを見て、セバクターも納得の表情を浮かべた。
「なら、その吹き抜けの通路が今度は下に向かって続いているかもしれないってことだな」
「そして、その一番下に魔法陣があってそれがメルディアスに繋がっているってことだろう」
だったらやっぱりそれが一番辻褄が合うよな、とルギーレも頷いた目の前でセバクターが口を開く。
「とにかく進んでみよう。今はまだ憶測の域を出ないからな」
彼に促された他の二人のメンバーは再び足を動かし始め、両側の壁からランプの光が照らし出す薄暗い通路を真っ直ぐ進んで行けば、確かにそこから先はまた階段が続いている。
「やっぱりか……」
自分の予想はやっぱり正しかった、とヴァラスが思いつつそう呟いた時、その階段の下からぬっと人影が現れた。
「……お、おい、何だお前らぐふぉ!?」
驚きの声を上げる男を、セバクターが先手必勝とばかりに前蹴りで思いっ切り蹴り飛ばしてやれば、その男は階段の下に派手に転がり落ちていった。
男が落ちていくその音は吹き抜けに大きく響き渡り、戦闘開始の合図となってこの瞬間に鳴り響いた。
階段の下の方からバタバタと足音が響いてくるのを聞き、セバクターが先陣を切って飛び込んでいく。
ヴァラスとセバクターはそれぞれ剣術と槍術を駆使し、螺旋階段を上がってくる人影目がけて攻撃を繰り出す。
例えそれが当たらなくても、少しでも足止めになればいい。
この高低差があり、しかも薄暗い場所で頼りになるのは己の目と、壁に備えつけてあるランプだけ。
その上、この螺旋階段が始まってからは階段の外側が壁になっていて、そこにランプが等間隔で掛けられており、逆に階段の内側には落下防止のための金属製の手すりが備え付けられている。
そんな薄暗いこの通路では攻撃の狙いを定めるのも一苦労なので、当たったらむしろラッキーという話なのだ。
(くっそー……俺って全然役に立ってねえ!!)
勇者パーティーを追い出された時のことを思い出してしまったルギーレにとっては、衝撃波を活かした戦い方ができない上に螺旋階段を崩して敵を落とすなどということもできない。
もし階段が落ちてしまったら、それこそ自分たちまで転落真っ逆さまである。
しかも、ここは本当に移動のためだけに造られた螺旋階段らしいので、気の休まる区間は一切ない。
(高低差があるだけまだマシだけどよ!!)
ロングソードのレイグラードは当然その攻撃範囲も広くなる。
だが、それを別の見方をしてみれば「狭い場所では取り回しが悪い」武器となる。
振り回している途中で、壁に当たって攻撃が中断されればそれだけで命取りだ。
それを階段の高低差を使って、なるべく縦斬りと突き攻撃主体の攻撃でルギーレは階段の下から襲ってくる敵を仕留めていく。
そうしてルギーレはヴァラスとセバクターに続いて階段を下りていくのだが……。
「……うおっとぉ!?」
ルギーレの目の前を矢が掠めた。
たまにこうして下の方から矢が飛んでくるので、それがもし突き刺さった場合は自分が階段の下に転がり落ちてしまうだろう。
ヴァラスもセバクターもそれは同じで、階段の途中に弓使いがいるた場合はなるべく早く仕留めておかなければならないと思っている。
(くっそ、弓の奴は遠距離だからな!!)
ヴァラスとセバクターも頑張ってくれているのはルギーレにもわかるが、地の利は向こうにあるのでその分は弓の狙いも正確になる。
螺旋階段はグルリと円状になっている階段を下りるので、こっちの攻撃が絶対に届かない円の反対側から狙われるのが非常に厄介だ。
なのでその厄介さを、自分の方に近づいてくる剣や槍使いの敵に対して八つ当たりのような気持ちでぶつけまくるルギーレ。
そんなルギーレの前方では、最下層に近づくに連れてヴァラスとセバクターの目にあるものが見えてきた。




