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519.忘れられないその姿

 問題としてはそれに留まらず、ディルクはあの塔で初めて出会った時のように魔法陣を使って魔物をあれだけ大量に呼び出すことができるし、仮に呼び出されたとして自分があの魔法陣の上に乗ればフタになれるだろうが、それだと戦うスペースが制限される上にディルクを追いかけることもできない。

 なのでここは一旦退いて、自分たちの方も態勢を整えてからもう一度ここにくる方法で行こうと決断したルギーレ。

 だが彼が踵を返そうとしたその時、自分の右肩に何者かの手が置かれた。


「っ!?」


 反射的に振り向きながらレイグラードを引き抜いて振り下ろすものの、ガキンという金属音と手に伝わってくる抵抗感に、ルギーレは違和感を覚えた。


「くっ!?」

「え、あれ?」

「おい、待て待て!!」


 よく見てみれば、レイグラードの刃が誰かのロングソードによって受け止められている。

 そのことに気づいたルギーレは、自分の振り下ろし攻撃を自分のロングソードで受け止めているのは何とセバクターで、静止する声をあげているのはヴァラスだったのだ。


「おおっと……すまん」


 すぐにその刃を離したルギーレは謝罪をするものの、その刃同士がぶつかり合った音によってどうやらドアの横の男に気づかれてしまったようである。


「勝手にどこかに行かないでくれよ、頼むから……」

「待て、今はそれどころじゃないんだ……くるぞ!!」


 そう言いながらルギーレは様子を窺っていたのだが、それよりも早くヴァラスが彼の後ろから飛び出して、さっきの男が近づいてきた足元にスライディングで滑り込んだ。

 そのスライディングで男の足を払い飛ばし、素早くのしかかりに持ち込んで男をうつ伏せにひっくり返したヴァラスは、魚と潮風の匂いがこびりついた床に押さえ込みながら後ろ手に締め上げる。


「い、いでええええ!!」

「おい、あいつは魔術師のディルクだな? お前はあの男とどういう関係だ? あそこで何をやっている? 私たちはあの男に用があるんだが、あそこは何の建物なんだ?」


 矢継ぎ早に質問を繰り出すヴァラスだが、男は黙ったまま答えようとはしない。

 そこでもう少しギュッと後ろ手に締め上げてやり、肩の関節が外れるか外れないかの状態まで極めればやっと男が口を開く。


「いっだああああ、ああ、あ……い、言う!! 言うから!!」

「じゃあ早く言え」


 締め上げた腕を少しだけ緩めてやり、男にこの建物の情報を聞き出し始めるヴァラス。


「こっ……ここはディルク様が帝都に向かう為に造られた通路があるんだ!!」

「帝都だと?」

「そ、そうだ! 地下に魔法陣があって、そこから帝都の地下に行ける!! お……俺が知っているのはそれだけだ!! 本当だ、後は知らねえっ!!」

「……そうか、わかった」


 ヴァラスは一旦締め上げるその力を抜き、ホッとした男も同時に身体の力を抜いた所でさっきよりも強い力でまた締め上げて肩の関節をゴキッと外してやる。


「ぎゃはああっ……ああ……あ……」


 余りのその痛みに男は気絶してしまったが、それはそれで好都合なので手近な場所に捨ててあったロープで男の身体を縛り上げ、同じく手近に捨ててあった汚いタオルで口を塞いだ。

 ヴァラスが男を縛り上げたのを見て、セバクターが今までのことをルギーレに問いかける。


「一体何があったのかは大体想像できるが、この町のどこかであの魔術師を見たのか?」

「ああ、見た。出入り口の近くであんたたちを待っていたら、あの魔術師のディルクが俺の前を通り過ぎていったんだ。だから勝手な行動をして悪いとは思ったけど、ここまで尾行してきたんだよ。そっちは何か情報が集まったのか?」


 セバクターは首を縦に振った。


「ああ。あの魔術師の目撃情報ならここで度々あった。だから俺たちもここまで来てみたら、あんたの背中を見つけてな」

「そうか、なら話は早いな」


 セバクターからの報告をルギーレが受けている間に、ディルクが入っていった建物の中の様子をヴァラスが窓から覗き込んで確認する。


「……どうだ?」

「人の気配はしないけど……魔力の流れは感じる」

「ああ、俺もだ」


 この建物の中から濃い魔力の流れを感じ取ったヴァラスとセバクターは、今までの戦士としての経験からいろいろと中の状況を把握した。


「中は誰もいないみたいだが、魔力の流れが十分に感じられるから注意した方がいい」

「あいつがここに出入りしているっていうのなら尚更だ」


 闇の魔術師とかいう大層な通り名で呼ばれているあいつがいるのなら、用心するに越したことはない。

 それを踏まえてセバクターが先頭で愛用のロングソードを構えて、まずはドアを少し開け中の様子を窺う。


「大丈夫……やっぱり誰もいないみたいだ」


 足音をなるべく忍ばせて踏み込んだ一行だったが、この建物が建ってから年数が随分経っているからか、ギィギィと床を踏み鳴らす音がどうしても響いてしまう。

 こればかりは仕方がないので、出来る限りの無音状態を心がけた三人は外観に負けず劣らずで小汚い室内を物色し始めた。

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