514.見えてきた計画
そういうセバクターの騎士団とギルドの暗躍に関する調査報告は、違法な物品の横流しだけで終わらない。
「さて、そのギルドと騎士団の話の続きだがまだ報告がある。騎士団がギルドの人間たちに、他国の侵略をさせていたという情報もあるんだ」
「侵略だって?」
ガルクレスが驚きの表情になったのを確認して、セバクターは落ち着きのある口調で続ける。
「そうだ。ギルドでは自国から他国に向かう任務も各国で斡旋斡旋しているが、その斡旋した任務に付け加える形で近隣の村を襲って村人たちを惨殺したり、さっきのこの魔石みたいな貴重な鉱物を根こそぎ奪い取ったりしている情報も俺の耳にまで入ってきている」
それを聞いていたガルクレスとヴァラスが口を挟む。
「ああ、それなら俺たち騎士団の方にもチラホラ話としては届いているな」
「私も、店にくる騎士団員の人からそうした話を聞いた覚えがある」
このようにして騎士団にまで噂になるぐらいの活動をしていたら、それはハッキリいって迂闊にもほどがあるんじゃないのかと考えるルギーレ。
「そうなると、すぐに騎士団の人間が絡んでいるって調べがつきそうな気がするがな」
ギルドの依頼を受けてやってきたのだから、冒険者の情報は管理されているんだろうとルギーレもすぐに察しが付くが、そこは騎士団の力とギルドの構造を巧妙に駆使した抜け道があるらしい。
「ギルドの構造は、例えばこの国のギルドの依頼を請け負ったとして、完了報告はどこでしてもいいんだ。だから国外まで遠征して、こっちに戻ってきて報告してもいい」
「……それだと、ギルドに報告したら……」
「ああ、いくらでも嘘の報告はできるってわけだ」
ルギーレはそれを聞き、以前に誰かが依頼がどうのこうの、単価が安くなるだのといっていた話を思い出した。
「誰かからこんな話を聞いていたんだけど、これは何か関係があったりするのか?」
「んん、ああ……確かにそれはギルドが抱える問題だよ。単価が安い依頼であれば俺たちも敬遠するからな。それもあって追加報酬的な意味で殺しとかを頼まれるんじゃないのか?」
「騎士団から?」
「だと思うがな……」
「それって、皇帝の指示で動いているのか?」
「すまない、そこまではさすがに俺でも調査ができなかった。しかしギルドの連中と帝国騎士団が暗躍しているのは確かだ。自分たちの帝国のギルドが実権を握れるようにな」
セバクターの口から出てきた、その実権という単語にもルギーレには聞き覚えがあった。
「実権……って、あれ……それってまさか……!?」
修練場を脱出する時に倒した、ギルドの職員が口走っていたあの一言。
『くそ……帝国のギルドが世界を席巻する前にここで終わるなんて……』
それをセバクターに伝えると、彼は「やはりな」と一言だけ呟いて納得した。
更に、その騎士団に所属しているガルクレスやレディクも頷く。
「目的は恐らく……世界中のギルドの実権を握ることだね」
「ああ。この帝国のギルドが全世界のギルドの頂点に立てるように誰かが小細工をしているんだろう。世界の頂点に立つギルドなら色々と優遇措置があるしな」
そう言われても、ルギーレには何だかモヤモヤが残る。
「ギルドの実権を握って世界一になろうとしているのはわかったけど……それでも別に何の問題もないような気がするんだけどな?」
それについてはガルクレスが再び説明する。
「世界中のギルドの頂点に立つということは、この世界を掌握したのと同じ意味になるんだ」
「何で?」
「この世界の冒険者はギルドへの登録が必須になる。つまり、どんな依頼も必ず一度はギルドを通さなければならないんだ。そうなると、自分たちに有利で待遇のいい依頼を優先的に受けることができる。そして、ギルドがなければこの世界の国々は成り立っていないといっても過言ではない。魔物の盗伐とか、細々した依頼とか、その国の騎士団だけではとても人員的な問題で対応できないからな」
「それは何となくわかる」
「ならいい。じゃあもし、そのギルドの冒険者たちが各国で反乱を起こしたらどうなると思う……?」
それを聞き、ルギーレの顔がハッとしたものになった。
「そうなると……かなりまずいことになるのは目に見えているな」
「例えば?」
「例えば……ほら、依頼が回らなくなるのはもちろんだけど、騎士団に対して攻撃する立場にもなるだろうし……後は団体行動とか組織的に行動する騎士団とは違って、冒険者は個人でも複数人でも動けるから、そういう問題を起こされた時になかなか犯人が捕まらなかったりもするよな。そして、そのギルドの連中を最終的に統一する人物が現れたとしたら……?」
「……だったら、好き勝手に色々とできるギルドの王国の誕生ってわけか。このアーエリヴァ帝国を本拠地としてしまえば、それだけで新しい世界が誕生してしまうってことだろうな」




