513.調査報告
そう思うルギーレの脳裏に、ふと一つの予想が浮かぶ。
「あれ、ちょっと待てよ……もしかしたら、今回の騎士団とギルド絡みの事件もそのディルクって魔術師が裏で色々動いているってことは考えられないか?」
だが、セバクターがそれを否定する。
「いいや、それはないだろう。なぜならあいつは、自分が殺人をやり遂げた後には独自のマーキングをして行くんだ。自分が殺した相手の血で描いた、自分のイニシャルを残すという悪趣味なものをな」
「そうなのか?」
「ああ。それにあいつは自分の利益にならないことには関心を示さないタイプなんだ。自分の研究の邪魔をされるのが嫌いな一方で、食い扶持も稼がないといけないから殺人を中心にして様々な犯罪に手を染めている」
「……それって、魔術師っていうよりも犯罪者の領域に入っていないか?」
ヴァラスが思わず口走れば、セバクターに「そうだな」と肯定された。
何にせよ犯罪現場にマーキングをするのであれば、誰がやったのかということが一目瞭然なので捜査する側としては助かるのかも知れないが、別の見方をすれば明らかな挑発行為だ。
「あれ? でも……俺の時は全くそんな素振りを見せることなく消えてしまったんだがな」
「……それはわからん。俺はあいつじゃないから心の中までは見透かせない」
「それもそうか」
自分の時はケルベロスを出した後にスッとその場から姿を消してしまったディルクだが、彼なりの考えがあったのだろうとそれ以上考えるのは止めておく。
その魔術師が関与していないというのは、既にセバクターの方で調べがついているようだ。
「この国に旅行に来た俺が、あいつがここにいるという話を聞いてその旅行を止め、独自に調べたんだ。だが、あいつの関与はしていないみたいだった。ディルクは基本的に国家機関からはよほどのことが無い限り依頼を受けないんだ。自分がよほど信用できるような裏の世界の団体だったり、個人からしか依頼を受けないって俺は本人から聞かされたことがあったからな」
「まぁ、それなら納得できるね」
レディクが頷くのを見て、セバクターは自分が調べたというこの国の実態に話題を切り替えた。
「この国の騎士団とギルドはどうも結託しているみたいでな。この国の騎士団員たちは自分たちのことを冒険者と偽って様々なギルドからの依頼に参加していた一方で、他国に色々と違法な物を秘密裏に横流ししていたんだ」
「よ、横流し?」
ガルクレスが戸惑いがちに尋ねると、セバクターは自分が持ってきている麻袋からゴソゴソと一つの黒い石を取り出した。
「例えばこれとかな」
「こ、これは……最高純度の魔石!?」
「何だそれ?」
ルギーレが興味深そうな視線をその石に送れば、傍らのレディクから説明が入る。
「これは魔石。魔力の結晶だよ。この世界で生きる冒険者だったら君も見たことがあるでしょ。でもここまで奇麗に魔力が蓄積されているのはなかなかお目にかかれないね。市場ではかなりの高値で取り引きされる代物だよ」
レディクとセバクターが何を言いたいのかは、今の話の流れでルギーレも理解できた。
「要するに、これは希少価値の高い石ってことだな。それを他国に横流しをして金を儲けているのがギルドの連中だと?」
「そういうことになる。本来ならこれは国単位できちんと検査をした上で、許可を取って適正価格で取引をしなければならないんだが、帝国騎士団の団員たちとギルドの間で色々と取り引きがされているのだろう」
「こうやって盗んだ品となった宝石の横流しをする為のルートなんて、ギルドの連中を使えば普通の依頼に見せかけて幾らでも作れるだろうしな」
セバクターの説明にヴァラスが補足情報を入れ、更にこの石に対しての理解が深まるルギーレ。
「結局国外に持ち出してしまえば、なかなかその先の足取りを掴むのは難しいだろうし、その筋で売り捌いてしまえばもうどこの誰に渡ったのかなんてわからなくなるケースが山ほどあるからな」
そこまで言ったガルクレスは話題を変更し、いきなりセバクターを問い詰め始めた。
「俺はそれよりも、なぜこれをあんたが持っているのかってのが気になるんだがな?」
そうそう手に入れられるような物でもないと思うけど、と問うガルクレスに対してセバクターはいつもの如く冷静に答える。
「あの塔の中で倒した帝国騎士団員が持っていた」
「そうなのか?」
「ああ。だからその辺りも含めてこれも証拠ということになるだろうな。ただの騎士団員がこんな物を持っているわけがないだろうし」




