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512.闇の魔術師

(境遇は違うが、追放されたっていうのは俺とそっくりだぜ)


 かつて、自分も勇者パーティーから追放されるという目に遭った。

 セバクターの過去の話を聞いていて、自分と重なる部分があると思ってしまったのだ。

 しかし、それと同時に複雑な表情も浮かぶ。

 確かに自分だって追放されてしまった人間ではあるものの、それよりもスケールの大きい壮絶な話をこうして聞いてしまった以上、もしかしたら自分が追放されたのって小さい話なんじゃないか? と感じてしまう。


(人は人、自分は自分だが……国が一つ滅んだ時に、その当事者の一人としてそこにいた人物がこうして目の前にいる……どう反応すりゃいいんだ……)


 そのルギーレの心境をよそに、セバクターによる魔術師の話は続く。


「そして俺は旅に出た。とはいっても、最初の内はその魔術師が犯人だというのはわからなかったし、何とか生きていかなければならなかったからギルドの冒険者として登録して、傭兵として活動し始めたんだ」

「そこから世界各地を回ったわけだな?」


 ルギーレの確認に対してセバクターは頷く。


「ああ。今の俺はもう貴族でも何でもない。俺は傭兵のセバクターであり、今はエスヴァリーク帝国副騎士団長のセバクター・ソディー・ジレイディールなんだ」


 そこにはあえてそれ以上突っ込まず、適当に流しながらルギーレがその先を促す方向に持って行く。


「……なら、その傭兵のセバクターが世界各地を回って名を上げたと。そしてその過程で魔術師が主犯だということも知ったと?」


「そうだ。その事実を知ったのは旅に出て二年後だった。俺がシャール王国の……あ、シャール王国は今の俺が住んでいるエスヴァリーク帝国の北の端にあった国でな。そこからまず北のカシュラーゼに船で逃れ、カシュラーゼから西に進んで左回りのルートで進み、最終的に俺はエスヴァリーク帝国に戻って来たんだ。そして、魔術師と出会って俺は王国の仇を取ろうとしたんだが……」

「が?」


 ルギーレの問い掛けに、それまで真顔だったセバクターの表情が曇った。


「俺は……俺は、傭兵家業の中でそいつに勝てなかった。俺の未熟な武術では通用しなかったっていうのもあるが、それ以上に奴の操る魔術は強力なものだったのが理由なんだ。奴の展開する魔術防壁はどんな物理攻撃も、それからどんな魔術も防いでしまう。魔力も恐ろしいほどの量が体内にあるらしいから、魔力切れを起こす前にこっちの体力が持たないし、強力な攻撃魔術を幾らでも使える男だったんだ」


 セバクターがその魔術師のことについて更に続ける。


「その魔術師の名前はディルク・デューラー。俺が旅をする中で独自に調査を続けていたんだが、奴は子供のころから魔術に関しては天性の才能を発揮していたらしい。しかもそれに加えて才能を無駄にしないように努力を重ねていたとあって、全ての属性の魔術を使える魔術師と呼ばれていた。だが……問題はその性格だった」

「性格?」

「そうだ。奴の天性の才能に目を付け、擦り寄ってくる者は後を絶たなかったという話だ。個人だけで無く怪しい団体、果ては国にまで目を付けられていたとあって、国の役に立つなら本当は嬉しいのだろうが……奴にもプライドがあったらしくてな。自分の才能と努力の結晶である魔術をそうそう簡単に他人に教えられないといって、擦り寄ってくる連中はおろかこの世界の住人が嫌いになったらしい」


 だんだん話が読めてくるルギーレ。


「まさか……そうやって他人が嫌いになったから、シャール王国を滅ぼしたと?」


 本当にまさか、そんなシンプルな理由で一国を滅ぼす訳が無いだろうと思ってストレートに聞いてみたルギーレだったが、セバクターの表情が更に曇って「あ、しまった」と思った時にはもう遅かった。


「まさに、その通りだ」

「えっ……」

「自分に擦り寄ってくる人間や獣人たちが嫌いになり、無差別に殺人を繰り返しているらしい。そして……あんたにも繰り出したあの魔物の召喚魔術も会得しているから、自分の手を汚すことなく魔物を操り、それでまた殺人を繰り返す危険な男としてつけられたあだ名が「闇の魔術師」だ」


 先ほど、セバクターが言っていた「生かしておいてはならない存在」。

 それがあの「闇の魔術師」のディルクだとしたら、確かにそんな無差別殺人を繰り返すような男を生かしておくわけにはいかない。


「大体事情はわかった。話がそれるけど、俺としてもあの塔で結局アイテムの類が手に入ってないってこともあるから、もしかしたらそのディルクって男がアイテムを持ち去った可能性もあるな」

「ああ、それはあり得るだろうな」


 彼がなぜあそこにいたのか、何をしようとしていたのか、そしてあの塔は一体何なのか。

 最低でもこの三つを聞き出すために、もう一度ディルクに会わなければならないだろう。


「だけど、あの魔術師がどこに向かったかの見当もつかないんだろう?」

「そうなんだ。そこが問題なんだよ」


 横から口を挟んで来たガルクレスに、ルギーレは困った顔で頷いた。


「他の皆に心当たりは……なさそうだな」


 ルギーレはチラリと他のメンバーにも目を向けてみるものの、期待している答えはなさそうである。


「まぁ……俺からしてみれば、その魔術師のディルクって奴が他人を嫌いになる理由もわからないわけじゃない。そうやって擦り寄って来られたら不愉快になる人間も沢山いるからな。だが、だからといってそれで無差別殺人を引き起こされたんじゃたまったもんじゃないぜ」


 実際に自分もそのディルクと対峙し、そして彼が召喚したケルベロスによって危うく殺されかけているのだからこそ言えるセリフだった。

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