511.セバクターの過去
ここにきてやっと事態が前に進みそうだと思ったルギーレは、自分が気になっているこの話題を繋げる。
「俺、思うんだけど……あの塔で結局アイテムらしいアイテムが手に入ってないんだよな、俺たち。それについて知っていることがあればって思ったんだけど、それ以前にあの塔の屋上にあったあのでっかい大砲みたいなあれ、一体何なんだ?」
あの魔術師が何かを弄り回している光景を、屋上までたどりついた時に目にしたのがルギーレの印象に残っているあの大きな鉄の塊。
それこそ戦争で使われるために製造されるような大砲を、更に大きくした感じのそのシルエット。
あれをあの場で弄り回していたということは、まさかあの魔術師があれを使って戦争でもおっぱじめる気じゃないだろうかと考えるルギーレ。
それに関してはセバクターの方から説明がされる。
「あれは魔導砲だな」
「魔導砲?」
「そうだ。名前の通り、魔力をエネルギーにして砲弾を作ってそれを撃ち出す兵器だ。そして、シルヴェン王国を滅ぼした原因でもある」
「え、それじゃぶっ壊しておかなきゃダメじゃねえか?」
最終的に王国が崩壊してしまったのなら、それはいいものとはいえないだろうとルギーレは思ってしまった。
セバクターもそれには神妙な顔つきだ。
「それはその……王国自体は壊滅してしまったんだが、王都に向けて発射された魔導砲以外にもまだ別に二つの魔導砲があってな。それが他の国々に向けられていた。俺たちはそっちも阻止するべく破壊しなきゃならなくて、メインのあれを見つけるのが遅くなってしまったんだ」
「……ああ、そう。それで、その他の二つの魔導砲はその後どうなったんだ?」
阻止って何だろう、と言葉の意味を考えながらもルギーレは話の続きを促した。
「二つとも破壊した。そしてシルヴェン王国が壊滅した後、俺がエスヴァリークの代表としてアイクアル王国のロンダールに向かった。そして今はアイクアル王国騎士団の一員として働いている」
ルギーレも納得したものの、なぜあの場所に魔導砲があったのか、それからあの場所であの魔術師の男が一体何をしようとしていたのかはまだ不明のままだ。
「なるほど、それはわかった。結局その魔導砲っていうのは兵器の一種なんだな。だったら、あの魔術師も結局そのシルヴェン王国の壊滅と同じことを考えていたって話なのか?」
「それは俺も知らないが、良からぬことを考えているのは確かだろう」
その魔術師と浅からぬ因縁があるらしいセバクターが、さっきと同じく神妙な顔つきで頷いた。
「良からぬこと……ね。そういえば、生かしておいたら危険な存在だ……って前に塔にいた時にあんたがいってなかったか?」
「ああ、その通りだ。あの魔術師は何が何でも殺さなければならない」
冷静な口調ではあるものの、その瞳には明らかに怒りと憎しみの炎がゴウゴウと音を立てて燃え盛っているように見えるセバクター。
この先、もしかしたらあの魔術師と決着を付ける時がくるかもしれないと考えたルギーレは、彼のことを良く知っているであろう彼からもっと情報を聞き出そうと考える。
「あいつはそんなにあんたと因縁があるのか?」
そう聞いた途端、更にセバクターの表情が険しくなる。
「因縁? そんなもんじゃない……あいつは、俺の生まれ育った王国を滅ぼした元凶だ」
「え? シルヴェン王国が滅んだのか?」
「違う。シルヴェン王国よりも前……今から九年前に滅んだ、シャール王国っていう国が俺の生まれ育った国だったんだ。国土自体は小さかったけど、俺はそこで貴族の一員として過ごしていたんだ」
だが、彼が十五歳になった時に状況は一変したらしい。
「忘れもしない。あの魔術師が、シャール王国の国王陛下を魔術で操ったんだ。禁断の魔術とされている、自分の意思を吹き込んだ生物を意のままに操ることができる、闇の魔術だ」
「闇の魔術……それって、エリアスのあのでっかい生物とはまた別なのか?」
アディラードの発動が可能な杖を思い出してセバクターに尋ねると、どうやら彼も事情を知っているらしい。
「あいつのアディラードは召喚獣だよ。アディラードは存在自体が魔力だからまるっきり違う。俺のいっているのは生物を操ることができる魔術だから、そうなれば生物を意のままにが可能になって、遠く離れた場所からでも自分の手を汚さずに犯罪もできてしまう禁断の魔術のことだ」
魔術のことは殆どチンプンカンプンのルギーレだが、他の生物をまるで手足のように意のままに操れるとすれば、確かに禁断の魔術だと認定されるのもわかる。
「そうなのか。じゃあ、その禁断の闇の魔術を使ってえーと……シャール王国だっけか。その王様を操ったと」
「ああ。王を操り、他国の刺客の仕業に見せかけて毒入りのワインで殺したって報告があったんだ。そしてその魔術師は王だけではなく、貴族や王族関係者も操り国内を滅茶苦茶にし、最終的には騎士団長も操ってその濡れ衣を着せられる形になった他国に攻め入ったんだが、当時のシャール王国の国力では敵わない程の戦力差があったから呆気なく返り討ちにあった」
無論、こっちから攻め込んだのだから反撃されても仕方ないといえばそうなのだが、それによってシャール王国は壊滅。
セバクターの家も没落し、彼は着の身着のままと一本のロングソードを片手に国を追われることになってしまった。
それを聞いて、ルギーレは自分の胸が「ズキッ」と痛んだ気がした。




