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49.勇者パーティーの敗北

 ベティーナがそのまま意識を失ってしまったのに気づかないまま、マリユスは謎の金髪の男と戦いを繰り広げていた。

 だが、この男が非常に厄介なのである。


(小柄なのをうまく使ってる。やりにくい相手だ!!)


 弓がメインウェポンなだけあってか、接近戦に持ち込もうとせず適度に距離をとって戦う相手。

 しかも適度に魔術を放ってくるので、近づこうにも近づけない展開が続く。

 だんだんといら立ちが募ってくるマリユスだが、仮にもSランクの勇者だけあっていったん冷静になりつつ、矢が切れたところを狙う作戦に出る。


(持てる矢には限りがあるはずだ。そこで一気に勝負を決める!!)


 ちまちまとヒットアンドアウェイ戦法を繰り返し、時にはテーブルの下に潜り込んでそこから矢を放ってくるトリッキーな相手をどう攻略するか。

 武器が使えなくなったらこっちのものだ。

 そう考えていたマリユスだったが、金髪の男はここで恐ろしい攻撃を繰り出してきた。


「くっ!」


 ファイヤーボールを撃ち出してマリユスの目くらましをしつつ、テーブルの下に潜り込んで再び矢を放つ。

 そしてテーブルの下から出てまた距離をとるというのが大体の男のパターンだったのだが、今回はその左手に矢ではなくあの液体が入っているビンを持っている。

 それを全力でマリユスのほうに投げてきた。


「なっ……!?」


 まさかあの液体を浴びせるつもりなのか。

 そうはさせないと、マリユスは緊急回避で自分の近くにあった棚の陰に隠れたのだが、金髪の男の狙いはそうではなかった。


「……終わりだ」


 一言、そして初めて男が声を出した。

 それと同時に、魔術によって先端に点火された矢が先ほど投げられたビンに向かって飛んでいく。

 その二つが触れ合った瞬間に部屋の中が一瞬明るく光ったかと思うと、一拍遅れて轟音とともに部屋を揺らす規模の爆発が起こったのだ。


「ぐわっ!?」


 思ってもみなかった場所からの、自分のイメージをはるかに超えるレベルの爆発の衝撃で、盾にしようと隠れていた棚ごと吹っ飛ばされるマリユス。

 何がどうなっているのか、今まで数々の冒険を積んで幾多もの強敵を倒してきた彼でも理解ができなかったが、少なくともこれだけは把握できた。


(あの野郎……やってくれたな?)


 気が付いた時には自分の身体が壁に叩きつけられ、一緒に飛んできた棚とその壁との間にに思いっきり挟まれてしまい、衝撃で目から火花が飛んだ。

 全身に力が入らず、愛用のハルバードも爆発の衝撃で手から離れてどこかに吹っ飛んで行ってしまった。

 そして爆発によって部屋にますます火がついてしまったらしく、ジリジリとした夏の日の太陽のような熱気を伴ってそれが迫りくるのが分かった。


「ぐぐ……くそっ!」


 あんな奴のこんな子供だましのような手に、Sランクの勇者である自分がみすみす引っかかってしまうなんて。

 そういえばベティーナはどうなったのだろうか?

 彼女の安否を確かめようにも、まずは自分の安否を「安」の状態にしなければ動けない。

 マリユスは力を振り絞って自分の身体に回復魔術をかけ、四股を動かせる状態までもっていってから息を整える。


(手と足……もう異常はないな)


 軽く手足を振って回復したのを確認してから、先ほど自分が放置してきてしまったベティーナがいるはずの場所へと歩き始めるマリユス。

 だがそこには、すでに顔面蒼白になって小刻みに震えている彼女の姿があった。


「べ、ベティーナ!! おいしっかりしろ!!」

「……ぅ……」


 もはや声を出すのすらしんどいようで、目も半開きの状態で横たわっている彼女に向け、自分が今できるだけの回復魔術をかけ続けるマリユス。

 あまり長くここにいると部屋の中に広がった炎に自分が焼かれてしまうが、かといって彼女を見捨てるわけにはいかない。

 そして東側に向かった三人も現在どうしているのか気になるので、回復魔術をかけ終わったマリユスはまずはベティーナを担ぎ上げた。

 続いて先ほど自分の手から離れて行ってしまったハルバードも回収し、部屋の外へと避難してから自分の持っている魔術通信用の石で連絡を入れてみる。


(……駄目だ、つながらない)


 もしかしたら戦闘中なのかもしれないので、ベティーナに再度回復魔術をかけて彼女の体調が万全になったら東側に向かおう。

 そう考えていたマリユスだったが、その時ドカドカと階段がある方向から多数の足音が聞こえてきた。

 まさか敵の増援か? とハルバードを構えてその足音の方向を見据えるマリユス。

 しかし、姿を見せたのはまるで予想外の人物たちであった。


「……ふぅ、まさかお前たちがこんなことをするとはな」

「えっ、あんたは……」

「ファルス帝国騎士団だ。お前たちを国家反逆罪によって城まで連行する」

「は?」


 すでに満身創痍の目の前に現れた、パーティーメンバーのうちの二人と同じく緑色の髪の毛をしている弓使いの騎士団員。

 なぜ帝国騎士団がここに? そもそも国家反逆罪とは一体何なんだ?

 その答えを知ることができず訳が分からないまま、マリユスはベティーナとともに城へと連行される事態になってしまった。

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