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503.こいつか!!

 大きな窓の横に、どこかに繋がるドアを発見したルギーレはそこから外に出てみる。

 するとそのドアの横にハシゴがあったので、それを上って屋上に辿り着いたのだが、彼の目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。


「……なっ!?」


 そこには黒光りする、重厚感溢れる「砲台」としか呼べない鉄の塊が斜め上に伸びている。

 そしてその砲台の横には、ルギーレが追いかけ続けてきた人物がしゃがみ込んで何やら作業をしていたのだ!


「……おや? 僕が召喚した手下の魔物たちを退けてここまで君がきてしまうなんてね。思ってもみなかったよ」


 屋上に姿を現したルギーレの姿に気がつき、その黒くて大きな塊を弄っていた魔術師(?)の男はしゃがみ込んでいたその身体を動かして、また仁王立ちの姿勢になった。


「あんたか……あのトラップを仕掛けまくっていた奴は!!」


 ルギーレはレイグラードを構えるものの、男はそれでも仁王立ちで腰の後ろに手を組んで余裕の表情である。

 そして心の中で納得した様子で、何やら小さく頷いた。


「どうやら君たちはそれなりに強いようだね。でも、ここまでくるのに君一人とは僕もなめられたもんだね?」

「あんたを倒すために、自分の身を犠牲にしてまで皆が戦っているんだ!!」


 そういうルギーレに対して、男は腰の後ろに回した両手で握っている愛用の杖の先端でトンッと屋上の地面を軽く叩く。


「……ふむ、ならば次は特別にこの魔物で君と一対一でお相手しよう。これなら違う展開も望めそうだからね」

「なっ!? ここにきてまた魔物を召喚するなんてさせないぞ!!」


 その思いだけでルギーレは男に向かって駆け出すものの、その前に男が魔物を召喚する方が早かったらしい。


「いでよ、ケルベロス! !」


 声と同時に、男の杖の先から広がった大きな水色の魔法陣からヌルッと一気に大きな魔物が現れる。

 人間の自分と比べてみても、明らかに大きなその体躯。縦の長さでいえば大体建物の三階ぐらいはあると言えるだろう。

 ルギーレが見上げるその視線の先。

 そこには口の端からヨダレを垂らし、今にも飛びかかって来そうなその獰猛な表情で彼を見つめる一匹の動物の姿があった。


(や、やべぇ……)


 直感的に「これは勝てない」と彼が悟るほど、勝つのは難しそうな動物と対峙する。

 黄土色の肌をしている、人間の自分より明らかに大きい身体。そして身体の後ろからチラチラと見え隠れしている、二又に分かれた白い尻尾は不気味にユラユラと揺れている。

 男は「ケルベロス」と言っていたが、この世界にいるケルベロスとはかなりその風袋は違っていた。


「……さて、そろそろ君には退散してもらうとしよう。僕は本来の研究に戻らなくてはならないのでね」


 そう言って、男はその場からまた魔術か何かを使ってスッと姿を消してしまった。

 しかし、ルギーレはその男を追うとかそれ以前の状況なのだ。

 自分の目から見てもすぐにわかるぐらいに殺気立っている、この目の前のケルベロスから一体どうやって逃げ出すべきか?

 今までの経験や知識を頭から引っ張り出しつつ、ルギーレはチャンスを探る。


(足の速さは図体がでかいからこいつが速そうだし、出入り口のドアも向こうにしかないし、ここは二十階の塔の屋上で二一階部分になるから飛び降りることもできないし……)


 つまり打つ手はなさそうだ。それはすなわち死を意味する。


(くそっ、これじゃダメか!?)


 ケルベロスから視線を外さないままで、ルギーレはレイグラードをしっかりと握り直す。

 だが、そんなルギーレの焦りが滲む表情と心境を読み取ったのか、ケルベロスは息を大きく吸い込んで何かの準備をし始めた。

 本能がルギーレの脳に警鐘を鳴らし始める。


「ちっ!!」


 ルギーレがとっさにほぼ真横に飛んで、そのまま転がって受け身を取った瞬間、今まで彼が立っていた場ところを業火が覆った。

 ケルベロスは口から炎のブレスを吐き、ルギーレを焼き殺そうとしたのである。

 図体が大きい分、余り動かなくてもルギーレの動きに対応できるだけの良いポジションを獲得することに成功したケルベロスは、更に自分のペースに持ち込んで聖剣に認められた人間を窮地に立たせようとする。

 先ほどからずっと吐いてきている炎のブレスはもちろんのこと、野生の動物らしい特徴と言える鋭い爪が生えた前足での引っ掻き攻撃、更には図体に見合わない身軽なジャンプをしてルギーレを上から踏み潰そうとまでしてくる。

 極めつけは、後ろに生えている短めの尻尾をブンっと上手くコントロールして振り回してくる。

 ルギーレの目から見てもかなり戦い慣れている様子だ。

 召喚獣のはずなのに、それはまるで幾多もの競争を勝ち抜いてきた経験が惜しみなく活かされている野生の魔物と遜色ないその戦い方に、ルギーレの限界はすぐに訪れそうだった。


(俺、ここで終わるのか……っ!?)

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