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501.亀裂

 その九階の階層が終わって上に進む二人だが、この十階から雰囲気が変わった。

 二、三階と作業場の階層が続いて、四〜九階と細長い通路が入り組んでいた階層で構成されていたのが、十階からは吹き抜けの天井になっているではないか。


「……あれ、今度は吹き抜けか?」

「といっても完全な吹き抜けじゃなさそうだな。ところ々に通路が横切っているから」


 見渡せる範囲が広くなったのは良いが、さっきみたいに空を飛べる魔物が現れてこの吹き抜け部分に逃げられたらかなり手こずるだろう。

 しかも吹き抜けの周りの部分を通らないといけないので、今までよりも上に上がるのに時間がかかりそうだと思ってしまう。

 それでもまだまだ進むしかないし、下から見上げる限り網の目の如く横切っている通路で魔物相手に戦うことになったとしても、それはその時に対処するだけだ。


「ここは両側からいけるみたいだな」

「じゃああんたはそっち、俺はこっちだ」


 階段が両側に二つあるので、ここはガルクレスとルギーレで二手に分かれて、吹き抜けの通路でいつでも合流できるように段取りを考えておく。

 その段取りを決めた後、それぞれの通路に設置されているドアの向こう側を調べていく。

 といっても、そこで特に目ぼしい物は見つかりそうになかった。

 ドアの向こう側はどうやら客室のような、それとも造りの部屋になっており、人が住むために設計されている階層なのだとルギーレにはわかった。


(うっひゃー、きったねえなここ……)


 長い年月が経過しているらしいがゆえに、どこの部屋も朽ち果てておりホコリやカビまみれ。

 更には魔物が闊歩している部屋に時々踏み込んでしまい、そこで戦いを余儀なくされることもあった。

 しかも部屋の数が多いため、しらみ潰しに探していくとなるとなかなか労力も時間も使うこととなる。

 そして、全ての部屋をチェックし終わった時には二人とも疲労困憊の状態だった。


「あー……少しだけ……少しだけ休もうぜ……」

「ああ、そうだな……」


 あの男を追わなければいけないのは頭で分かっていても、身体がいうことを聞いてくれないのではどうしようもない。

 それでも、こうして全ての部屋を調べてみて分かったことがあった。


「とりあえず、あの男はこの吹き抜けの階層にはいないみたいだ」

「だな。でもこの塔はもっと上があるみたいだし、まだ調べる余地はあるってことだ」


 しかし、最上階の通路を渡って更に上に進もうとした一行の前に「ヤツ」が現れた。


「……!」

「あ、お、お前っ!!」


 灰色の床と壁で渡り廊下になっている通路の真ん中に、さっきの階段の時と同じくあの男が仁王立ちをしている。

 二人はそれぞれ男に対して即座に武器を抜き、臨戦態勢を整えていつでも来いと言わんばかりの表情だ。

 相手は一人。こちらは二人。第三者から見て分があるのは明らかにルギーレとガルクレスの方である。

 対する男のその表情は明らかにうんざりしており、ここまでやってきた二人の姿を見て溜め息を吐きながら頭を左右に振った。


「しつこい人たちだね。僕は研究の邪魔をされるのが何よりも嫌いなんだよ」


 そういうと、魔術師の男は地面に手をかざして巨大な魔法陣を自分の足元に作り出す。

 その瞬間、ミシ……ミシッと渡っている通路に亀裂が入り始める。


「……はっ!!」


 あの機械兵器が突進してきた時の光景が蘇ってしてきて、背中を向けて立ち去る魔術師を追うべく走り出す二人。

 そんな二人の目の前で、亀裂が大きくなった通路が崩壊する!!


「ふぉらぁ!!」


 力強く踏み切ったルギーレは、崩壊していく通路をギリギリで飛び越えることができた。

 だが、ガルクレスは違った。


「ぬおああああ……ぐえっ!?」


 精一杯の幅跳びをしたまでは良かったが、崩壊していくスピードが早い大穴を飛び越えることができず、幅跳びが足りずに渡り廊下のふちに腹から思いっきりぶつかってしまう。

 その衝撃でガレキとともに、仰向けに真っ逆さまに落ちていくガルクレスにルギーレが気がついた時は既に遅し。


「え、ガルクレスっ!?」

「うおあああーーーーっ!?」


 ガレキが飛び散る中で絶叫を残して、腹をぶつけた苦痛に歪む表情を浮かべるガルクレスを絶望の表情で見つめることしかできないルギーレだったが、それで事態は終わらない。

 またルギーレの足元に魔法陣が現れ、更に亀裂が入り始める。


「ガルクレス! ガルクレスぅ!! ……くっそ!!」


 ルギーレは更なる崩壊から逃れるために何とか渡り切ったまでは良かったものの、まだモウモウと煙を上げている崩落後の通路を見つめてしばらく動けない。


「そんな、まさか……」


 先ほどガレキの中に消えていったガルクレスの苦痛の表情が、今でも鮮明に思い出される。


「くそっ、あの野郎……絶対に許さねえぜ!! 何が研究だよ……ふざけるなよ……!!」


 ガルクレスが犠牲になったことで、ルギーレも怒りの炎を燃やしつつ、改めてあの魔術師を追いかけることを誓った。

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