499.フタ
「どうした、そんなもんかい? やっぱり僕の魔術には敵わないみたいだね?」
一行の攻撃をあざ笑うかのように、男は余裕しゃくしゃくという感じで魔術防壁の向こうで腕組みをしてニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
「大丈夫か、みんな!!」
何とか周りの魔物を退けてやってきたガルクレスは、他のメンバーが苦戦している状況をその目で見て理解する。
そして、ヴァラスから衝撃の事実を聞かされることに。
「駄目だ、あの男には物理攻撃も魔術も効かない……!!」
「ええっ!? そんなバカな!」
信じられないといった声と表情でガルクレスは男を見据えるが、その彼の余裕のポーズを見る限りどうやら本当らしいと察した。
「くっそぉ……ああっ、またきた!!」
ヴァラスの声にガルクレスが彼の視線の先を見れば、先ほどの魔法陣からまたもや魔物たちが沸き出てきていた。
階段とその踊り場付近という、スペース的な問題で戦いづらいこともあって四人は次から次に現れる魔物の対応で精一杯の状態が続く。
そんな四人を嘲笑うように、男はその場からスッと姿を消した。
「……くそ、消えやがった!!」
思わず荒々しくルギーレも叫ぶ。
彼にもわかるように姿を消してしまったその男を探し、魔物が湧き出てくるのを止めなければならないだろう。
ここで時間を食っているとどこかに逃げられてしまうかもしれないので、どうにかして先に進みたいのだが魔法陣を消せる方法が今の所は見つからない。
「ぐ……どうすれば……おわっ!?」
その一瞬の隙を突いて、鳥型の魔物に後ろから体当たりされたガルクレスが魔法陣の上にうつ伏せに倒れ込む。
素早く身体を回転させて仰向けになり、その状態の彼に更に突進してきた魔物にロングソードを突き出してリーチの差で絶命させた。
(危なかった……)
一息ついて再び立ち上がるガルクレスだが、そんな彼の様子を見ていたレディクがあることに気が付いた。
「……ガルクレス、動かないで!!」
「え!?」
まさか敵の奇襲か?
ガルクレスは立ち上がったポーズそのままで動きをストップさせるが、レディクからはそれ以上の反応はない。
「え、おい、一体何なんだよ……?」
俺に危険が迫っていたんじゃないのかと首を傾げるガルクレスだが、レディクは「そのまま動かないで」ともう一度いうだけだ。
不思議に思いつつも、何か意味があるのかもしれないと考えてその魔法陣の上に立ったままにしておくガルクレス。
すると、彼の魔法陣の周りで変化が起きていた。
いや、正確に言えば「元通りに戻っていく」状態である。
今まで無限に湧き出てきていたはずの魔物たちが、彼が魔法陣の上に乗っかったのを切っかけに出てこなくなったのだ!!
残りの三人で残っている魔物を殲滅させた頃には、すっかりこのフロアに静けさが戻っていた。
「……ようやく終わったみたいだな」
「どうやら、この魔法陣の上に乗りさえすれば魔物が出てこなくなるみたいだな」
通常、魔法陣というのは魔術の発動地点になっているため、そこに乗っかってしまったらもろに直撃を食らうことになる。
その常識を偶然ではあるが打ち破ることになってしまったこの展開で、四人は危機を脱出できたのだった。
「何だよ……まさか、魔法陣の上に乗りさえすれば出てこなくなるなんて思いもしなかったよ」
胸を撫で下ろしつつ、ガルクレスは魔法陣の上から退く。
だが、その瞬間再び魔法陣から魔物の姿が見えてくる!!
「おっ、おい、戻れ!!」
「うおっとぉ!?」
ヴァラスの叫びにガルクレスは慌てて魔法陣の上に戻った。
するとやはり、魔法陣から魔物が現れる気配が途中で消える。
「……ということは、誰かがここで魔法陣のフタの役割をしておかなきゃならないってことだな」
ガルクレスのいう通りだとすれば、それはここで誰か一人を置いて行かなければならないことになる。
「そ、そんな……」
レディクが絶望的な表情になる。そして彼以外の三人も程度の差はあれど、同じく落胆した表情になる。
まだ進み始めて少ししか経っていないのに、ここでメンバーが欠けるのは正直キツイ。
そもそも、この魔法陣を解除するのならあの男を倒さなければならないかもしれないので、一旦この塔を最上階まで調べてからここに戻ってくるか、あるいはあの男を倒して解除するしか選択肢がないわけだ。
どっちにしても、ここで誰か一人が残って魔物の増殖を食い止めておかなければならない。
「じゃあ、ここに乗っかったのは俺なんだし俺が残るぜ」
ガルクレスがそう言ってここに残ろうとしたが、それを手で制したのは……。
「いや、僕が残るよ」
「レディク?」
「何でだよ? ガルクレスが残るって言ってるんだから……」
驚きの表情を見せるヴァラスとルギーレに対し、彼は自分の考えを他の全員にいう。
「僕が残った方がいいだろう。だって、僕の魔力の量が少なくなってきているからそろそろ回復しないといけないんだよね。休み休み行ってもいいけど、そんな状況で上の階に向かって魔力が切れたら困るし、あの男を追うことを考えたら僕がフタになるのが妥当じゃないかな?」
その淀みないセリフを受けて、「それもそうか」と納得したのはガルクレス自身だ。
「わかった。だけどもし魔物がまた現れたらすぐに逃げるんだぜ?」
「大丈夫だよ。絶対に生き残って、またアーエリヴァの騎士団員として活動しなくちゃならないからね!!」




