497.ルギーレのデジャヴ
しかし、筒状の弾丸をレイグラードで防御できる自信があるかと聞かれれば、その答えは「いいえ」だ。
(なら、やられる前にやるだけだ!!)
長引いたら長引いただけこっちが不利になると考え、ここは一気に畳みかける戦法を取った。
まずは機械兵器の突進を避けて、そこから機械兵器の脚目掛けて手に持っているレイグラードを振るう。
だが、これはカーンと高い音を立てて弾かれてしまう。
(ちっ、普通の斬りつけじゃ無理か!)
舌打ちしたルギーレはバックステップで距離を取り、再度撃ち出された筒状の弾丸を床を転がって回避しつつ、レイグラードに自分の有り余る魔力を込める。
(それならこれはどうだあ!?)
筒状の弾丸を回避したその低い体勢そのままに、これでダメだったらその時はまた別の方法を考えなければいけないと思いながら、ルギーレは先ほどの斬りつけよりも更に力が出る動きに入る。
「……うおらあっ!!」
かつて、あの遺跡で初めてレイグラードを手にした時に戦った金属製の狼のことを思い出しつつ地を蹴って跳び上がり、空中できりもみ回転をして勢いをつけつつ機械兵器の脚めがけて斜め回転斬りを繰り出す!!
するとその瞬間、彼に取っては心地いい手応えとともに見事に機械兵器の脚が切断された。
「よしっ!!」
思わずそんな声が出てしまったほどに気持ちのいい手応えを感じたルギーレの斬りつけ。
そしてレイグラードに込められている魔力による衝撃波の発生で、バランスを崩した機械兵器は後ろの魔力の噴射口から魔力を噴射して体勢を維持しようとする。
だが、噴射口をそんな状態で使おうものなら……。
「くっ!!」
不安定な挙動を示した機械兵器の突進をギリギリで避けたルギーレが見たものは、ホールの壁にぶつかる寸前で脚を使って自分の体勢を制御しようとしたその機械兵器が、脚を一つ失ったために止まりきれず壁に激突して自滅した場面だった。
「や、やった……」
これだけの図体なのに素早い動きで手強い相手だった……とルギーレは安堵の息を吐きながら、レイグラードを握っている両手をだらりと下ろした。
しかしその瞬間、今まで忘れていたあることに気が付く。
(あっ、そういえばガルクレスは!?)
小型のサポート機械兵器を引きつけて走り去っていった、帝国騎士団副騎士団長の後ろ姿をルギーレは思い出し、彼を探しに行こうと足を動かし始める。
(いくらあいつの腕が立つといっても、あの小型の機械兵器を複数体相手じゃあ……)
だが、それは杞憂に終わったようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……あっ、ルギーレ! 無事だったみたいだな!」
「……ガルクレス! 無事だったのか!」
息を切らしてルギーレが走って戻ってきたので、ルギーレはこれで探しに行く手間が省けたことになる。
「大丈夫だったか?」
「ああ、三匹相手はちょっときつかったけど何とかなった。ルギーレもルギーレで何とかなったみたいだな」
やっぱり勇者パーティーの一員だっただけあるな、と機械兵器の残骸に目をやりながらガルクレスが感心していると、二人の元に足音が複数向かってくるのが聞こえた。
「おおーい、ルギーレ、ルギーレ!! ……あー良かった、一体何があったのかと思ったよ……」
「というかそれ、凄く大きな残骸みたいだが……一体何がどうなっているんだ?」
足音の主はレディクとヴァラスの二人だった。
あのシャッターの中に入った後、ガルクレスとルギーレが落っこちてしまったのを目の前で見て慌てて様子を見にきた。
すると、大きな鉄の塊が二人を追いかけているのが眼下に見えたので自分たちも加勢するべく走り出した……までは良かったものの、一階に続く階段を下りようとした時にまたあのメカチックな魔物が複数襲いかかってきたので、そこで思わぬ足止めを食らって今ここまでやっと来られたらしい。
そんな足止めを食らっていた二人に対して、ルギーレはとりあえずこの機械兵器の説明を自分のできる限りでする。
「これ、恐らくここの侵入者対策の機械兵器じゃないか? この塔に入ることを許可されていない部外者を排除するために配備されているらしい」
「それにしては、もうちょっと交渉の余裕を持たせてくれてもいいと思うけどよぉ~……」
部外者なら部外者なりの扱いをもう少し考えて欲しい、と実際にその機械兵器と戦ったルギーレがぼやく。
しかし、ルギーレがこの機械兵器をさっき見かけた時は不気味に鎮座していただけのはずだったのに、なぜ今になっていきなり襲撃をかけてきたのだろうか?
「例えば生物の足音とか気配とか身体の熱に反応して、それでその反応した対象に向かって行くようにできているのかもしれないな」
四人の間に沈黙が訪れる。
「……こんなのが、まだこの上の階にもいるかもしれないってのか……」
「そうみたいだな。でも、俺たちはそれでも進むしかないだろう!」
このタワーを上に上がって行ったら、今度は一体何が出てくるのだろうか?
その未知の領域にこれから踏み込んで行くことに一抹の不安を覚えながらも、周囲の様子に警戒しながらいつでも戦闘態勢に入れる気持ちで上を目指す四人。
一体、誰が何の目的でこんなタワーを造ったのだろうか?




