495.赤い点
二階の大部屋の敵を一掃した一行は、ここで二つから一つの選択を迫られる。
一つはこの大部屋の奥に見えている、上の階に向かう為の階段の方に向かうルート。そしてもう一つは自分たちが入ってきたドアの真正面に向かって真っすぐに歩き、突き当たりにあるドアから外に出るルート。
つまり、まだ二階には調べられる場所があるということになる。
「……どっちに行く?」
ルギーレが後ろからついて来ようとしているガルクレスたちに尋ねれば、四人の間で意見が交わされ結論が出る。
「どーするよ、この先?」
「そうだねえ、僕だったらまずこの二階を徹底的に調べてから上に行くかな」
「私も賛成だ。まだ調べられる場所を残したままにするのって何だか気持ち悪いしな」
「俺は別にどっちでもいいよ」
「じゃあドアの先を調べようぜ。新しい発見があるかもしれないからな」
結論が出たその二階のドアの先では、また若干フロアの雰囲気が変わった。
なぜならドアの先は普通の通路ではなく、ガラス張りになっている渡り廊下だったのだ。
ここでは敵の襲撃に気がつきやすい分、敵の襲撃を受けやすい場所ということにもなるだろう。二階の渡り廊下なので、窓の外から照明の光が差し込んできているだけあって視界は抜群にいいからだ。
そして渡り廊下の先では、一つの錆び付いたシルバーのシャッターが一行の行く手を阻んでいる。
「これ……開くのか?」
ルギーレがシャッターに手をかけて押し上げようとしたが、シャッターはびくともしない。
「ダメだ、鍵がかかってやがる。どこか別の通路から行くしかねーかもなぁ、これ」
諦めの表情でルギーレがそう一行に提案したが、次の瞬間ガルクレスが思いがけない行動に出た。
「俺がやってみよう」
「え?」
「危ないから少し下がってろ。一気にぶっ壊してやっからよ」
そう言いつつ、愛用のロングソードを構えながらガルクレスはそのシャッターの前に立った。
しかし、そのシャッターをぶち抜いたら何が出てくるか全く予想がつかないので、自然と緊張感が漂う渡り廊下の内部。
「……ふっ!」
軽いかけ声とともに地を蹴って、そのまま気合い一発でガルクレスのロングソードの軌跡がシャッターを斬り裂いてしまった。
「おお、やった!!」
「うっしゃ、これで先に進めるぜ」
「お、おう……」
荒っぽいやり方だったとはいえ、道が切り開かれたならそれでよかったじゃないか……と心の中で自分を納得させてからルギーレはガルクレスに続いてシャッターを潜ろうとした。
しかし、先頭でそのままシャッターを抜けて先へと進もうとしたガルクレスの側頭部に、ふと異変を見つけるルギーレ。
「……ん? おいガルクレス、その赤い点は何だ?」
「え? 赤い点?」
「ほら、これだよ」
紫の長髪がかかっている彼の頬の部分を指差すルギーレだが、ガルクレスは特に違和感を覚えてはいないらしい。
「いや、俺は別に何も感じねえけど」
「え? でもこの動いている赤い点って……」
その赤い点に対してルギーレは注目し続けるものの、ここで妙な悪寒を覚えてしまうのは気のせいだろうか?
(ちょっと待て、俺……何か忘れてる気がすっぞ?)
後はシャッターを潜るだけの一行だったが、ここで新たな乱入者が訪れる。
ガガ、ギギッと何かさび付いた金属が擦れ合わさるような音が渡り廊下の下から聞こえてきたので、そちらに全員が目を向けてみる。
と、そこには招かれざる客がいた。
「げっ、何だありゃあ!?」
「あ、あれは……!?」
ルギーレもガルクレスも思わず驚きの声を上げてしまう。
その渡り廊下の下に見えるのは、四足歩行でボディカラーが黄色と白に塗り分けられている、それこそまるで最初にレイグラードを手に入れた遺跡にいた狼のような形をしている機械兵器の姿だった。
背中の部分には、何だか奇妙な四角い口のような物が鎮座しているその機械兵器の、額の部分についている赤い光線がガルクレスの顔に向かって放射されている。
(まさか、あれが……?)
ルギーレが確信するよりも早くそのセンサーが妖しく光ったかと思うと、後ろのその額から物凄い轟音と共に光が溢れ出る。
(や、やべぇ!!)
瞬間、嫌な予感がしたルギーレはガルクレスの手を引いて、シャッターとは逆方向へと全速力で駆け出す。
「えっ、ちょ……っと、おい……!?」
ガルクレスが驚きの声を上げた次の瞬間、今まで二人が立っていた渡り廊下の地点に向かって、物凄い勢いでその機械兵器が浮遊しながら突っ込んできた。
「うおっ!?」
機械兵器はそのまま渡り廊下のガラスを砕き、更に渡り廊下自体も分断。
「うわっ!?」
「ぬおおっ!?」
突進自体はギリギリで何とか回避したものの、破壊されてしまった場所の近くにいたその衝撃で揺れた渡り廊下の振動に耐え切れず、ルギーレとガルクレスは分断された部分から一階へと落ちてしまった。




