494.遺跡への疑問
自分のレイグラードと動物の機動性を考えるとかなりのスピード差があるものの、そこは室内に置かれている多くのテーブルが高低差を作り出してくれて相殺してくれる。
例えば飛びかかってくるのが得意な狼の魔物には、その飛びかかってくる時に一旦テーブルの上に着地してもらうことで隙を作り出し、そこを突き攻撃で仕留める。
空中を飛び回っている鳥型の魔物には、こっちが逆にテーブルに飛び乗って高い位置からの斬りかかりや突き攻撃、更には両手で上から下に押さえつけるようにしてテーブルに叩きつけ、絶命させる。
(身の周りにあるいろいろな物を使って戦うのだって立派な戦術だし、俺だって使える物はとことん使って戦えばいいじゃねえか!!)
他のメンバーも、レディクは自分の魔術を使って鳥型の魔物を中心に排除。
槍使いのヴァラスとロングソード使いのガルクレスは地上の魔物を中心に排除、とそれぞれ自然に役割分担をしながら戦っている。
だが、一旦攻撃の手が緩んだ隙にルギーレは疑問を覚えた。
(しかし、ここが封印されていた遺跡だとして……なぜこの遺跡の中にまだこうして生きている魔物がいるんだ?)
それも、外からは姿が見えないはずの遺跡なのだから外からの調査は入っていないはずだし、あんな金属パーツと融合している魔物が世に出回っているとなれば、それだけでかなりの騒ぎになるだろう。
だが、さっきのガルクレスを始めとするパーティメンバーの反応を見る限りはこうした設備やあんな魔物なんて一般的ではないらしい。
(この塔を初めて見た時だって、それからさかのぼって一つ目の遺跡の機械室の時の反応だって「この国で見たことがないような設備だ」って口走っていたし、この部屋の魔物のこいつらを見た時の反応も同じ感じだし……)
なら、やはりこの塔の中だけで魔物たちは生き永らえてきたと言うことなのだろうか?
その疑問は結局解消されることなく、襲いかかってきた新しい魔物に対してルギーレはレイグラードを再び振るい始めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
そうしてやっとの思いで、この部屋の中で闊歩していた魔物を殲滅して静粛が戻り、ルギーレは一息ついて近くのテーブルの上に座る。
「あー……結構しんどかったな……」
「何だってんだよこいつらはよぉ、無駄に防御力が高かったぞ……」
ガルクレスも、いつもと違う魔物に対してかなり苦戦していたようだ。
「私とレディクも、こんな魔物たちを相手にしていて勝手が違ったが……それでも何とかなるもんだ」
「ああ、だけどここまで広い部屋があるとなるとさすがにきついね……」
せめてもっと部屋が狭かったらまた展開は違ったかもしれない……とぼやくヴァラスを横目で見ながらレディクが再度口を開く。
「ねえねえ、そうええばさっきの話の続きを聞かせてくれない?」
「え、さっきのって?」
「ほら、君がさっき予想ができるってさっき言ってたでしょ?」
ルギーレが先ほど言っていた、自分なら幾らかの説明がつくと言う話。
自分で「話は後回しにしてこいつらを片つけるぞ」と言っていたのを思い出したルギーレは、休憩も兼ねてそれを改めて説明し始める。
「ああ、それか。それについては俺の予想でしかねえんだけど、多分……エリアスってのが絡んでいると見ていいんじゃねえかなって」
「あのスパイが?」
「そうだよ。あいつは何か……こう、うまく言えねえんだけど俺たちとはなんか違うような気がするんだよなあ」
このヘルヴァナールという世界で生きている自分たちから見て、あのエリアスという逃げて行った男は何か得体のしれない存在のような気がする。
ルギーレは動物的なカンでそう思っていた。
「そうなのか。じゃあ、この塔もエリアスが絡んでいるってのか?」
「その可能性はあるだろう。確かここに入る前、魔力が凄く溜まっているって話を誰かがしていなかったか?」
「それは僕だね。この辺り一帯にかなり強い魔力が流れているのはわかるって言った記憶がある」
手を挙げて自分をアピールするレディクは、赤いスイッチの話も絡めて自分の予想を告げる。
「多分だけど、あの赤いスイッチが魔力の障壁をこの塔全体を覆うようにして作り出すためのものなんじゃないかと思う。それで僕たちには見えなくなるけど、その不思議な剣を持っている君だったら普通に見えていたって話じゃないかな?」
「うーん……だったら、この塔はエリアスが何かの目的で存在を隠す為にそうやってスイッチで障壁を展開していたってことになるのか……?」
だが、今ここで答えは出そうにないので、とにかく一行は上に向かって進むことにした。




