493.魔術技術的な設備
こうして、金属製のドアの向こうへと全員で踏み込むことにしたルギーレだったが、踏み込んだ早々に衝撃的な光景が目に入った。
「っ……!?」
「うお……何だここは?」
ルギーレの隣でガルクレスが大きなリアクションをする。
それもそのはずで、金属製のドアの向こう側にはこの国ではまず見られないような、どちらかといえば魔術技術的な設備が充実している場所があったからだ。
まず、作業台として使われている長いテーブルがいくつも規則正しく並べられており、壁の手前には金属製の棚が置かれている。
その棚には皮の袋に詰め込まれている何かが置かれていたり、金属製のパーツが無造作に並べられていたりする。
更に今の一行が立っている場所のすぐ近くに戸棚があるので開けてみれば、その中には何か変な液体が入っているビンが置いてあったり、木の小箱の中に袋詰めにされている謎の粉が入っていたりと、研究所の一角のような物品が保管されている。
部屋の奥には透明で曇っている縦長の大きなカプセルが四つほど鎮座している。
塔の黒い外壁とは違い、内部は一階のエントランスから階段、そしてこの部屋までくすんだ白い壁で統一されているのもますます研究所のような雰囲気を醸し出している原因だろう。
「すげえな、ここ……」
「でも、ここにはまだ生き物がいるみたいだよ」
既に廃墟となった研究所という表現が正しい気がするこの部屋だが、すんなりと調査に踏み切らせてくれそうにはなかった。
なぜなら、小型ではあるものの身体の一部が金属のパーツと融合しているメカチックな魔物が部屋の至る所を闊歩しているからである。
そしてその内の一匹がルギーレたち四人に気が付き、襲いかかってきた。
飛びかかってきたのは小型犬並みの大きさの四足歩行の魔物で、前脚と後ろ脚と尻尾がそれぞれ金属でできている身体を軽快にジャンプさせながら、鋭い牙――それもまた金属でできている――を剥き出しにして飛びつこうとしてきた。
「くっ……!!」
「んなろ!!」
一瞬怯むルギーレの横から、実戦経験が豊富なガルクレスがロングソードを構えて飛び出る。
そのまま上段から豪快にロングソードを振り下ろし、魔物を文字通り一刀両断にした。
「ギャヒン!!」
断末魔の叫び声を上げ、肉片とともに金属パーツを床にばらまいて絶命する金属の融合体の魔物。
「何だよこりゃあ……魔物といえば魔物なんだろうが、こんな金属の身体をしている魔物なんか俺たちは見たことねえぞ!?」
自分が斬り伏せた魔物の死骸を見下ろしてから、ガルクレスが驚きの声と表情でルギーレに顔を向けた。
そんな顔で見られても、ルギーレだってここに踏み込むのは初めてなのだからわかるはずがない。
しかしここのこの状況はわからなくとも、勇者パーティーの一員として今まで色々な国の現状を目の当たりにしてきた経験から、ある程度の予想はできる。
「俺もこんなのは見たことがない。だけど、いくらかの説明はつく」
「本当か?」
「一体どうなってんだよ、この魔物は?」
レディクとガルクレスもルギーレに説明を求めるが、仲間の魔物を倒した音に気が付いた他の魔物がぞろぞろと四人の方に近づいてきている。
この広い部屋――恐らくは実験施設か魔物の生成工場だろう――を見る限り、少なく見積もってもちょっと広めの鍛錬場並みの広さはありそうだ。
ここだけで二階のスペースを使っているのなら自分たちに向かってきている魔物の数も納得できるが、襲われる理由は納得できないので当然迎え撃つ四人。
「話は後だ。まずは先にこいつらを全部片づけるぞ!!」
ルギーレの号令に他の三人全員から威勢の良い返事があり、それぞれの得意分野でこの二階部分の魔物達をまずは片づけ始める。
幸いにも、最初にガルクレスが斬り伏せた魔物と同じようなサイズの魔物――シルエットは四足歩行から鳥まで様々だが――しかいないので、大型の魔物相手に苦戦するということはなさそうだ。
しかし、その魔物の金属製のパーツがついている場所が厄介である。
戦う人間は肩当てや胸当てなどの防具を着ける。それに、移動用の馬やワイバーンにも騎士団が所有するものや個人で戦場を移動する時には、防具を身に着けさせる場合が多い。
理屈はそれと一緒で、金属製の部分はパワーのある攻撃ができるなら余り関係ないのだが、例えば矢が金属製の部分に刺さったとしても、ギリギリで致命傷にならなかったりするので始末が悪い。
(くっそー、やりづれぇぜ!!)
レイグラード使いのルギーレは、備品を吹っ飛ばしてメンバーたちに被害が出ないようにするべく、なるべく衝撃波を使わずに斬撃で対応するしかなかった。




