491.解除方法
不安な気持ちを押し殺し、右のドアをこじ開けて恐る恐るゆっくりとドアの先を覗き込むルギーレ。
そんな彼をその先で待ち構えていたのは……。
(あっ、階段か……)
ドアの先は、人が二人すれ違うのがやっとといえるぐらいの幅しかないらせん階段に通じている。
反対側のドアの先には恐ろしいものが待ち構えているわけだし、ここで躊躇していても何も進まないので、意を決してルギーレは足を踏み出して階段を上り始める。
この階段は一体どこに続いているのだろうか?
そもそも、何でこの塔は自分以外の人物には見えていないのだろうか?
(まさか魔術が関係しているんじゃ……)
そうだとしたらやっぱり色々とタチが悪いし、調査するにあたってものすごく迷惑なので、何とかしてまずは塔が外のメンバーに見えるようにしたいと考えるルギーレ。
そもそもこのタワーの入り口は縦長の頂点部分に存在しているので、タワーの裏側からきてしまった来客に対して遠回りをさせてしまうようなデザインである。
それにこの階段を上り始めてから気がついたのだが、明らかに「人間ではない」呻き声みたいな音がさっきから階段の上から下に向かって聞こえてきている。
いや、タワー中に響いているといった方が正解だろうか。
まさか魔物がこのタワーの中にいるのだろうか?
いるとして、もし遭遇した時には戦わなければならなくなってしまうだろう。
(そうはいっても、今この塔の中に入れるのは俺だけだもんなあ……)
あんな得体の知れないのが相手になるとレイグラードが通用するかどうかまでは怪しい。
一度だけ、その腰にぶら下げているレイグラードに視線をくれてから更に階段を上って三階部分に一気にたどり着いた。
二階部分にはドアがあってその先はどこかに続いているらしかったが、こっちは金属製のドアになっていてカギもかかっていたので諦めて三階部分までやってきたのである。
(こっちは通路からそのままドアもなしに続いているみたいだな)
それならそれでまたドアをこじ開ける手間が省けて助かったと思うルギーレだったが、その三階部分は何と行き止まりの小部屋になっている。
そして、またもやルギーレの見たことないような設備が鎮座していた。
(制御するためのような場所……か?)
最初の遺跡の地下一階の奥で見つけた、大型の機械や監視用らしき画面が鎮座している部屋が脳裏にフラッシュバックする。
またあの時のように何かスイッチらしきものがあるのではないか、とその設備に近づいてみるルギーレの目に留まったのは、いかにも「それらしき」赤くて四角いボタン。
(これを押してしまったらどうなるんだ……?)
この部屋に閉じ込められてしまうのだろうか、それともあるいは何か得体のしれないものに襲われてしまうのだろうか。
初めて勇者パーティーに参加した時よりも緊張しているルギーレだが、意を決してそのモニターの手前に鎮座している赤いボタンをポチッと手のひらで押してみた。
その瞬間、今まで薄暗かった部屋の中がパアッと一瞬にして明るくなった。
「……!」
間違いなくこの赤いボタンを押した結果だろうが、それと同時にタワーの至る所で何かが色々と起動する音が聞こえてきた。
(このボタン……さしずめこの塔の明かりを入れるスイッチって奴か?)
とりあえずこのタワーの中の様子はかなり変化があったようなので、ここから更に調べるべくこの部屋を後にしてルギーレは一度階段を降りる。
(あの二階のドアも開くってことかな?)
他とは明らかに経路の違う金属製のドアにもロックがかかっていたのだが、これで開いてくれると嬉しい。
もし開かない場合は一階に戻り、また「あれ」がいる部屋に入らなければならないだろう。
(いやー……でも、かなり厳しいと思うがな……)
なので先に、できればあの金属製のドアの向こう側から調べたいと思っているルギーレは、そのドアの手前までやってきてから耳をドアに当ててみて、まず音と気配で向こう側の様子を何とか探ろうと試みる。
しかし、金属の冷たい感触が耳から伝わってくるだけでそれ以外のことはわかりそうになかった。
(くそ、ダメか……)
防音加工でもされているのかもしれないと思いつつ、ドアの取っ手に手をかけてグイっと押してみる。
すると先ほどの木製のドアの時の苦労が嘘のように、すんなりと開いて先に進めるようになった。
(やっぱりそうか!!)
自分がさっきの赤いボタンを押したことでロックが解除されたらしい、と踏んだルギーレはそのドアの先に進もうとした。
だが、彼の耳にその時バタバタと階段の下から何者かの足音が聞こえてきた。




