47.勇者パーティーの苦戦
「このままじゃ俺たちがやられる! こうなったら一気にあの洋館を制圧するぞ!!」
「え、ええっ!?」
「ちょっと、退路を切り開くんじゃないの?」
マリユスの声の届く範囲で戦っているベルタとリュドが驚きの声を上げるが、この状況で持ちこたえたままではきついのだと説明する。
「こんなに数の多い連中はどう考えても変だ! おそらくこいつらを操っている何かがいるはずだ。そいつを倒さなきゃ終わらないと思う!!」
そして盗賊たちは洋館の中から次々に出てきているので、おそらくはあの洋館の中に何か秘密があるらしい。
だったら踏み込んでその何かを排除してしまえば、きっとこの戦いも終わるはずだ。
そう考えたマリユスは、襲い掛かってくる盗賊たちを適当にあしらいつつ洋館の前へとたどり着いた。
その洋館の出入り口のドアを守っている盗賊二人と、中から出てくる増援の盗賊たちをまとめて、地面にたたきつけたハルバードで衝撃波を生み出して吹っ飛ばすマリユス。
「よし、俺に続け……全員突っ込むぞ!!」
マリユスが大きく左手を振って突入を指示し、ほかの場所で戦っていた四人の女たちがそれに続く。
その中で一番最後に着いてきたライラが、盗賊たちの奇妙な状態に気が付いたらしい。
「ね~、マリユス」
「何だ!?」
「この盗賊たちって何だか変じゃない~?」
「何がだよ!? もっとハキハキ喋れ!」
こういう場面でもこんな間抜けな喋り方をされると、さすがに冷静なマリユスでもイライラする。
しかし、そのイライラを忘れさせるだけの情報がライラからもたらされた。
「だってこの人たち~、目の中に光が見えないんだよ~」
「は?」
「目が死んでるの~。何だか操り人形を相手にしているみたいなんだよ~」
操り人形?
目の前の盗賊を一刀両断したマリユスが目を丸くする。
「どういうことだ?」
「そのままの意味だよ~。男も女も関係なく敵は全部一緒で、生気が感じられないの~」
それを聞いたマリユスは、周りの敵をすべて一掃してから考え込む。
ここに来るまでにいろいろと町や村を回ったこと、ここに来たら盗賊たちにいきなり襲撃を受けたこと、終わらない盗賊の増援、生気のない瞳を持つ敵。
それらをすべてひっくるめた結果、この洋館の中には必ず何かがいるとしか考えられないとマリユスは確信した。
「わかった。だったら手分けしてこの館の中を探し回るぞ。この洋館は西側と東側に分かれているみたいだから、俺とベティーナは西側。残りのお前らは三人で東側を頼むぞ」
いったい何がこの洋館の中にあるのか?
その疑問の答えが、それぞれのグループの目の前に現れて判明するのはすぐだった。
洋館の東側の敵を倒しながら進んでいく女三人の目の前には、黒ずくめの格好に緑色の髪の毛を少し伸ばした若い男の姿が現れたのだ。
「気を付けてリュド、ライラ。この男は今までの連中とは明らかに格が違うわよ」
「そうね~。これは油断できないわねえ~?」
「……誰? あなた」
やけに緑髪の人間の比率が高い中で、その中の一人であるリュドが発した質問。
だが、男はそれには答えないまま自分の言いたいことをつぶやいた。
「……計画通りだ」
「は?」
「何を言ってるのかしら? そもそも私の質問に答えていないじゃない」
「お前たちが知る必要はない。なぜならここでお前たちの人生は終わりだからな!」
そう言いながら謎の男が構えた獲物は、まるでライラの防具を彷彿とさせるような赤と黒の配色がまぶしい、両手で扱うタイプの長いバトルアックスだった。
それを振り回して三人に向かってくる黒ずくめの男だが、だからといって三人も高いギルドランクを有するだけの実力を持っているので、簡単に負けるわけにはいかない。
そもそもこっちは三人いるのだし、どんなに強い相手であろうともこの人数差は覆せないだろう。
そう考えていた三人だが、黒ずくめの男はいったんバックステップで距離を置いてからピュイッと大きく指笛を吹いた。
すると、この東側の一番大きな部屋に向かってドカドカと走ってくる多数の人間の足音が聞こえてきた。
「え……?」
「まずい、増援だわ!!」
これで一気に形勢が逆転し、窮地に追い込まれ始めてしまった三人。
まさか自分たちがここに来ることも見越して待ち伏せていたのか? そもそもこの男はいったい何者なんだ?
それにこの洋館でこの盗賊連中と一緒にいったい何をしようとしているんだ?
三人の疑問は尽きることを知らないのだが、そのすべての疑問に対する答えを、洋館西側の一角にある大きな部屋でマリユスとベティーナが発見していた。




