3.巨大な……機械?
「ちょ、ちょっとストーップ!!」
「んえ?」
「今すぐその剣から離れてっ!!」
しかし時すでに遅し。
次の瞬間、剣の手前に黒いモヤのようなものが現れたかと思うと、そこから見慣れぬ巨体が姿を見せたのだ!!
「な!?」
「くっ!」
女はとっさにルギーレに対して魔術防壁を発動し、彼を包み込んでバリケードを張る。
それが間一髪で間に合い、モヤの中から出てきた巨体の「何か」の一撃をブロックできたのだった。
「な……なんなんだよこいつは……っ!?」
「下がって! 危険だわ!」
ルギーレは腰のロングソードを引き抜いて構えつつ、女に言われた通りバックステップで距離をとる。
女は次の魔術が発動できるように身構える。
そんな二人の目の前でモヤの中から出てきた巨体の正体は、二人とも今までの人生の中で目にしたことがないシルエットだった。
「なっ……」
「お、大きい!」
まず目につくのは四本脚。
しかも普通の四本脚ではなく、明らかに金属でできている。ゴツくて太くて、まるで柱が歩いている印象だ。
さらにその四本脚が支えている胴体もまた金属で、シルエットとしては狼に近いのだが、どう見ても違うのはその頭に当たる部分の上に大砲の筒のようなものが鎮座していることだった。
「ま……魔物か!?」
「いや、違うわ。これは魔力で動く機械か何かじゃないかしら?」
「機械だって!?」
そんな馬鹿な。
魔力で動く機械なんて、それこそ自分がここまで来るために乗ってきた列車ぐらいしか知らないルギーレにとっては、もちろんこんなのと対峙した機会なんてない。
「ど、どどどどうする!?」
「どうするもこうするも、ここは逃げるしかないわよ! さっさとここから逃げ……えっ!?」
螺旋階段へと続く通路の床が、まるで侵入者を逃がすわけにはいかないといわんばかりにガラガラと崩れてしまった。
ポッカリとあいてしまった床、そしてこの巨体。つまり逃げ場はない状態だ。
「くっそ……こうなったらこいつを倒すしかねえな!!」
「やるつもりなの?」
「ああ。どこまでやれるかわからねえが、やってやんぜ!!」
追放されて逃げてきた自分が、今度は逃げることができない状況に陥ってしまっている状況に苦笑いを漏らしつつ、ロングソードを構える。
そんなルギーレを捕捉した金属の狼は、その硬くて太い脚を軽快に動かしつつ一気に肉薄する。
だがまっすぐ向かってきているだけなので、ルギーレは地面を転がって突進攻撃を回避し、右の前脚にロングソードを振り下ろした……が。
「ぐぅ!?」
ガキン! と金属同士がぶつかり合う音がしただけで、金属の狼は全くの無傷。それどころか、ルギーレのロングソードの刃が若干欠けてしまったではないか。
しかもルギーレの腕にまで、その威力の強さがしびれとなって伝わってきた。
(くっ、やべえ!? 腕にしびれがっ……!)
「危ない!」
「ぐはっ!?」
一回目の攻撃は何とか防げても、その大きなボディ全体を使った突進攻撃の二回目までは防ぎきることができなかった。
ルギーレは腕のしびれに気を取られていたこともあって、女の声に反応してとっさにロングソードで防御姿勢をとったのもアダとなった。
本当はこれこそ転がって避けるべきだったんだ……と心の中で思いながら、ルギーレは自分のロングソードの刃が真っ二つに折れるのを、自分も宙に浮いている感覚を覚えつつ視界の端に捉えた。
「ちょ……ちょっと大丈夫!?」
「ぐふぅ……あっ!」
「待ってて!」
女は大きめのファイヤーボールを無詠唱で壁の一部に向かって飛ばす。するとそのファイヤーボールが当たった壁が少し崩れ落ち、ガレキとなって金属の狼の上に降り注いだ。
その狼は意思があるのか、崩落に巻き込まれないように後ろへ素早く下がって危機を回避。
女はその間にこれまた無詠唱で、ルギーレの全身にいきわたるように回復魔術をかけたのである。
「は……はぁ、はぁ!! 助かったぜ……!」
「ボヤボヤしてる時間はないわよ! ほら、また来るわ!」
「くっ!」
しかし、頼みの綱のロングソードを失ってしまった以上ルギーレには反撃するすべがない。
こうなったらこの金髪の女の魔術に頼るしか……と思った瞬間、視界の隅にあるものが目に入った。
(こーなったらあれを使うしかねえ!!)
抜けるかどうかはわからないが、やってみる価値はあるだろう。
ルギーレはそう決め、素早く身体を起こして台座に突き刺さっている剣のもとへ向かった。
「うおおおおおっ……っと!?」
古びた台座に突き刺さっている剣だけあって、そう簡単に抜けないんじゃないか?
そう考えていたルギーレの期待はあっさりと裏切られ、少し力を込めただけであっさりと抜けてしまったのだ。
だが、それ以上に期待を裏切られる展開が彼に待っていた。
「うっ……ぐぅぅ、あっ!?」
身体中にバチバチとした痺れが走る。
先ほど、自分が攻撃を受けた際に感じた痺れとは比較にならないレベルだが、何とか立っていられる強さだ。
その光景を見ていた女は、剣から出てきた水色の青白い光がルギーレを包み込んでいるのが分かった。
(これも……これも確か、予知夢で同じようなものを見た気がするわ!)
そしてその光が収まると、ルギーレは剣を握っている自分の両手を見て、身体の奥底から湧き出てくる妙な高揚感と研ぎ澄まされた感覚を覚えた。
「よっしゃ……これならいけるかもしれねえぜ!!」