490.やってダメならこじ開けろ
「くっ、ぬぬ……」
釘を何本も打ち込まれているだけあって、なかなか固いドア。それでも絶対にこじ開けることができない固さではない。
「ぬぅっ、ぐっ、くそ……」
無理に力強くこじ開けようとすれば、それだけでドアの一部が変形して二度と開かなくなってしまうかもしれない。
それから自分のレイグラードが折れてしまう危険性だってないわけではない。
ゆっくり少しずつ少しずつ、息を吐きながらギコギコとレイグラードを上に下に、手前に奥に動かして目の前のドアを開いていく。
「くぅ……あっ、ぬああっ!!」
額に汗をにじませながら、ドアを少しずつ変形させてやっとの思いでバキッとロックの金具を壊して開いた。
「あー……疲れた……」
なぜにドアを開けるだけでここまで疲弊しなければいかんのだ……と思わず本音がポロリと口から出ながらも、ようやく開いた目の前のドアを見て安堵の息を吐くルギーレ。
しかし、その安堵の息はすぐに驚きの叫び声に変わった。
「っあ……むぐ!?」
ギリギリの所で慌てて自分の右手で口を押さえて、絶叫を呑み込む。
(な、何だありゃあ……!?)
薄暗い室内の中に見えた「それ」は余りにも巨大過ぎて、そして唐突過ぎてルギーレは思わず後ずさる。
一旦そのまま後ろ歩きでドアの外まで出て、息と心を整える。
「……何だ、あれは……」
ルギーレがそのドアの奥で見たものは、明らかに自分に向けられている一つの視線。
目が合ってしまったので思わずこうして外に出てきてしまったものの、ドアに耳を張り付けて中の様子を窺ってみても別に襲いかかって来る気配はない。
だが、このままドアの中に入っていくのは危険だと判断して一旦こっちのドアの先の調査は後回しにし、まずこの状況を伝えるべく出入り口のドアから外に出て、外で待っているパーティメンバーに報告。
「おっ、どうだった?」
「何か見つかったかい?」
「って、何か顔色が悪いぞ……大丈夫か?」
ギラギラと目を輝かせて近寄ってくるガルクレスとレディクだが、彼の変化に先に気が付いたのはヴァラスだった。
「いや、それがだな……ええと、こんなでっかい何か得体のしれないのがいてだな。で、部屋が左右にわかれていてドアがガッチリ閉じられていて、穴がこうやってドアに一杯あって……」
「ちょちょちょ、まずは落ち着け。あんた今、自分の言葉が相当メチャクチャになってるぞ」
ガルクレスに突っ込みを入れられるぐらいにパニック状態になっているルギーレは、一旦レディクから皮袋に入っている水を受け取って、それを少し飲んで落ち着く。
「……落ち着いたかい?」
「ああ、少しはな……。だけどこの塔は色々とまずいことになっていそうだ」
「どういうことだ?」
レディクに水の入った皮袋を返し、今度こそ落ち着いたルギーレはヴァラスを始めとしたパーティメンバーに自分の見たままの光景を話した。
「……そんなでかい魔物がいたのか?」
「いや、魔物って決まったわけじゃない。あれは寝ているのかどうか知らなかったけど、こっちの存在には気が付いていないようだった。大きさは……ええとそれこそドラゴンよりはかなり小さかったけど、それでも俺たちの背丈から見たらかなり大きそうな奴がいたんだよ」
身振り手振りも交えて必死に説明するルギーレだが、実物を見ていない彼らにとってはいまいちイメージができない様子である。
それとは別に、自分があの塔の中に入った時には外から見て何か変化がなかったのだろうか?
そのことを三人に尋ねてみたルギーレだが、不思議な答えが返ってきた。
「それがさー、あんたが出入り口らしきドアを開ける仕草をして中に踏み込んでいったら、何もない空間に溶け込むようにしてあんたの姿が消えちゃったんだよな」
「何だって?」
ガルクレスの発言からすると、どうやら自分の姿は外からはまるで見えないようだ。
「ということはもしかして、この塔はそうやって外から見えないようになっているのか?」
「そう……らしいな。今でも僕たちの目には何も見えないんだが、この辺り一帯にかなり強い魔力が流れているのはわかるよ」
レディクからも妙なことを言われ、やっぱり今の段階で……いや、もしかしたらこの先も塔の中を調査できるのは自分だけかもしれないと考えるルギーレ。
これももしかしたら、レイグラードの力によるものなのだろうか?
というわけで彼は再度塔の中に踏み込むことになったのだが、不安な気持ちは最初に踏み込んだ時より更に増している。
(まさかドアを押こじ開けた先にあんなものが鎮座していたなんて……)
これから右のドアに向かい、同じくレイグラードを使ってこじ開けにかかるのだが、こっちのドアをこじ開けたらまた同じようなのがいた……とかの展開だけは本当に勘弁してほしい。
その願いだけで頭が一杯のまま中に入るルギーレは、右のドアに開いている穴に対して緊張しながらレイグラードを差し込んだ。




