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489.単独行動

 うーんと悩んでいた一行だったが、その中でレディクがとんでもない提案をルギーレにし始めた。


「じゃあさ、危険はあると思うし無謀だとは思うんだけど……まずはあんたが一人でこの塔の中に入って調べてみてくれないかな?」

「はい?」


 何を言ってるんだこいつは。

 こんな得体の知れない塔の中に、俺一人で入れだと?

 ルギーレの口から思わず変な声が出るが、レディクは理由をしっかりと考えた上での提案だという。


「だってさ、僕たちの中でこの塔? が見えているのは君だけなんだろう? だったらこの塔の中に入ることができるのも君だけってことにならないか?」


 それに続いてガルクレスも同意し始める。


「それもそうだな。俺たちはそもそも塔自体が「見えていない」んだからな。そもそも見えないのに入れって言われても無理な話だよ」

「そうだよな。それに結局この場所にきたのだって、君がマルニスやその灰色のドラゴンと会えるかもしれないからっていう理由からだよな」


 ヴァラスにまでそれらしき意見を言われて、ルギーレは反論することもできずに口を噤んで黙り込む。


「別にダメそうだったら一旦戻ってくればいいじゃねえかよ。何も死にに行けって言ってるんじゃねえし」

「いや、この得体の知れない塔の中に入って死んでしまったらそれは同じことじゃないのか……?」


 ガルクレスのフォロー(?)にささやかな抵抗をしてみるルギーレだが、次のガルクレスのセリフで塔の中に入らざるを得なくなってしまった。


「じゃあいいよ。あんたが自分の仲間に会うための手がかりを見つけたくないっていうなら、俺たちも別にこれ以上あんたに付き添う理由もねえし、ここでおさらばってことでだな」

「そうそう。僕たちの団長は僕たちで探すよ」

「それが嫌なら行ってくるんだな」

「……わかりました」


 三人から変なプレッシャーをかけられ、ルギーレはとうとう陥落した。

 哀愁と悲壮感が漂う背中を他の三人に見せながらトボトボと歩き、出入り口の大きな扉に手をかけて一度だけ振り返る。


「もし、俺がいつまで経っても戻って来なかったらせいぜい墓だけは作ってくれよ」

「ああ、わかった」


 ガルクレスに無駄にそこだけ力強く頷かれ、ルギーレは更に不安に押し潰されそうになりながら塔の中に足を踏み入れた。


(……薄気味悪い場所だな……)


 ルギーレの第一印象は、一言で言えば「廃墟の城」がピッタリ当てはまった。

 勇者パーティーに属していた時の依頼で魔物討伐に向かった時、そこで廃墟となった城の中に巣を作っていた魔物たちを討伐したことがあった。

 その城のエントランスの光景がしっくり来るこの塔のエントランスの天井では、豪華なシャンデリアが既にその輝きを失って長い年月の末に朽ち果てている。

 ドアからはまず一本道になっていて、突き当たりで通路が左右に九十度折れ曲がってその先に木製のドアがそれぞれ一枚ずつある。


(どっちに行けばいいんだ?)


 迷っていても話が進まないので、ルギーレはとりあえず右のドアから入ってみることにした……が。


「ん、あれ?」


 ガチャガチャと円形のドアノブを回してみてもドアはビクともしないし、蹴って開けようとしても引いて開けようとしてもやっぱり開かない。

 このままじゃラチも明かないのでこっちのドアは無理と判断し、もう一つのドアに向かった。

 しかし……。


(……おいおい、こっちもカギがかかっているじゃねえか!!)


 左の通路の先にあるドアも結局ビクともせず、いきなり先に進めない状況となった。

 結局どっちのドアもカギがかかっていて入れそうにないので、早々に諦めて退散しようとしたルギーレ。

 だが、試しに腰のレイグラードでドアが破れないかどうかを試してみる。


(いけるか?)


 自分の目の前にあるドアに向かってレイグラードを構え、上段から斜め左下に振り下ろして斬り付ける。

 その結果は……。


「何だよ、結局ダメじゃねえか!!」


 自分にパワーが足りないからドアを破れないのか、あるいは木製に見えるこのドアの材質はこの世界には存在しないものなのか。

 どっちにしてもこのドアは開きそうにないので、今度こそ諦めてルギーレは戻ろうと肩を落とす。

 しかし、その無意識のリアクションが大きなヒントを彼に与えた。


(あれ、このドア……よく見ると何本もの釘で固定されてるのか?)


 薄暗いせいもあってドアの前に立っただけでは気がつかなかったが、視線を足元に落としたことでキラリとドアの一部が輝いた気がしたのだ。

 その場所に顔を近づけてみると、ドアの至る所に細かく釘が打たれて開かずの扉になっているのだ。

 そして、放置されて年月が経っているせいもあるのか、ドアの所々に穴が開いて向こう側が見えている。


(何でこんな厳重なロックがかかっているんだ?)


 普通に鍵をかけておくだけじゃダメだったのだろうか? とルギーレは首を傾げつつも、穴の一つからそっとドアの向こうを覗いてみる。


(んー、よく見えないな)


 せめて少しでも何かが見えれば不安もいくらか和らぐのだが、この状況ではそうも言っていられない。

 ドアにはまだ他にも穴が開いている箇所があり、その内の一つがドアの端に存在している。


(ここならいけるか?)


 これでダメなら今度こそ本気で諦めようと決心し、ルギーレはレイグラードの先端をゆっくりとその穴に差し込んだ。

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