484.本当のことと嘘のこと(その1)
「目、大丈夫?」
「ああ……もう平気だ」
後片付けの終わった国立図書館の一階のエントランスで、備え付けの椅子に座って自分の目の様子を確認してくれているレディクに対してルギーレが答える。
「誰かが怪しいとは思っていたけど、まさかエリアスが裏切り者だったなんて……」
「それっぽい素振りはあったにはあったけど、いざこうしてわかってしまうと何だか複雑な気分だな」
ここに来て発覚した、まさかのエリアスの裏切り。
パーティメンバーの中の誰かが裏切り者じゃないかと以前に話題にはなったものの、ルギーレ以外の三人のパーティメンバーによって、その正体がエリアスであると暴露される結果になった。
そしてルギーレ以外の三人のパーティメンバーもギルドの冒険者ということで、彼らもまたあのマリユスと繋がっているんじゃないか? とルギーレは考えてしまう。
それは三人も薄々感じているらしい。
「まぁ、それはな……」
「もしかして、俺らもマリユスの奴と繋がっているって思ってねーか?」
「……ああ。ハッキリ言わせてもらえばまだ信用はできないな」
そう言いつつヴァラスの方にも視線を向けるルギーレに対し、当のヴァラスは一旦ガルクレスとレディクと顔を見合わせてから何かを決意したかのように頷いた。
「そうか。だったらもう……私たちも本当のことを話した方が良いかな」
「それがいいだろうね」
「もうここまで来たら黙っている必要もないだろうし、疑われたまま一緒にパーティを組むのはこの先で気まずい思いをしながらの旅路になっちまうだろうしな」
その三人の会話を聞き、まさかこの三人も自分に何かを隠しているのか? とルギーレは思わず身構える。
「おいおい、待てって。俺たちの言い方も少し悪かったか。俺たちはマリユスと何の関係もないよ」
「そうそう……ガルクレスのいう通り、僕たちはこの国のギルドとはもう関係のない立場なんだ」
「結論から言ってしまえば、俺たちはこの国の騎士団員とその仲間なんだよ」
「へ?」
この国の騎士団員? その仲間?
今までずっと「自分たちは冒険者だ」と言われてここまで一緒に来ていたルギーレにとって、何がどうなっているのか頭の理解が段々追いつかなくなってきている。
三人の正体に、ルギーレはどこまでが本当の話なのか更にパニックになる。
そもそもこの三人の関係は一体どうなっているのか、誰を信じていいのか……この状況はもう何が何だかわからない。
「……あのー、取り込み中の所悪いが、色々話を聞かせて貰えるかな?」
「ん、わかった。じゃあ続きは終わってからにしよう」
だがそこで図書館の職員から声をかけられ、パーティメンバーは一旦会話を終わらせ事情聴取に向かうことになった。
「じゃあ、その男が機密書物庫の中に入って行ったと?」
「ああ。俺、あの男が本棚を倒したのを見たんだ。そしてどうやったのかはわからないが、みんなが騒いでいる隙を突いて機密書物庫へのドアを開けて、更にその奥のドアも開けて中に入って行くのを俺は後ろから追いかけて見てたんだよ。で……あの男はどこに行ったか知らないか?」
事情聴取が始まり、エリアスの行方を聞き出そうとしたルギーレに図書館の職員は見たままを伝える。
「あの男だったら三階の窓から飛び降りていったよ。機密書物庫の方からいきなり出てきたかと思えばそこの開いている窓から下にある高い木に向かって飛び降りて、そのまま木の幹を伝って逃走したよ!!」
「くそ……何て逃げ足の速い奴だ!!」
怒りに燃える表情を見せるルギーレだが、実はこれも自分が疑われないようにするためにとっさに考えたシナリオだ。
あくまでも自分は「後から追いかけた」という追跡者の立場を装って話し続けるルギーレ。
先に機密書物庫の中に入っている彼からして、言っていることはまるで嘘である。
「それで、そいつはあの機密書物庫の最奥にある透明なケースから破片か何かを取り出して自分のズボンのポケットに収めた。明らかにそれは窃盗だから、逃がす訳にはいかないと思って俺はその男と戦った。だけど……すまない、俺が力不足なばかりに逃げられてしまった……」
「後から追いかけた僕とこの男も同じだよ。あの男に二人掛かりで負けてしまった。でも行き先の見当は大体ついているから、責任を持って僕たちがあの男を追いかけて決着をつけるよ」
「絶対逃がさないぜ、あの男……!!」
事情聴取前に自分たちが疑われないように嘘の話の展開を思い付いたルギーレと、それをベースに事前に打ち合わせしていたそのシナリオに沿ってレディクとガルクレスも「全てはエリアスがやったこと」として全ての責任をエリアスに押し付ける、という作戦だった。




