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483.敵を欺くにはまず味方から

「……へっ、ここまで来るのに苦戦してたのがバカみてえだぜ」

「ぐ……」

「つ、強すぎる……」


 ルギーレとレイグラードの組み合わせを止められるのは、それこそ生半可な冒険者たちでは無理な話だった。

 カインもティレジュも、それぞれの武器を向って立ち向かっていったはずのルギーレに対し、衝撃波を繰り出したり人間慣れしている動きを見せる彼の前になすすべもなくやられてしまったのである。

 こうしてギルド関係の追っ手コンビを何とか退け、透明のケースを開けて破片(?)を回収したルギーレは、改めてこの図書館から脱出を試みる。

 だが、そんな彼の耳にまた新たな足音が聞こえてきた。


「……!」


 まさかもう増援が来てしまったのか、それとも図書館の職員か帝国騎士団の団員か?

 いずれにせよ、ここから脱出するためにはまた同じように倒していかなければならない存在だろうと思いつつ、ルギーレは開きっ放しの出入り口のドアの陰に身を潜める。

 やってきた人物が、カインとティレジュの様子を見て驚いている隙にコッソリと機密書物庫を出るか、あるいは後ろから奇襲をかけて倒すかの二パターンのシミュレーションを頭の中で考えながら。

 だが、そのシミュレーションは部屋に飛び込んできた人物の姿を見て、一瞬でルギーレの頭の中から吹き飛んでしまった。


(……ん!?)


 ドアの陰から様子を窺って飛び出すタイミングを探っていたルギーレの目に、明らかに見覚えのあるシルエットと服装の人物が映る。

 それは同時に、ルギーレに幾ばくかの安心感をもたらす人間でもあった。


「お、おい、エリアスか!?」

「あっ、ルギーレ……無事だったんだな!」


 息を切らして飛び込んできたのは、この国にきて自分にいろいろと協力してくれていたパーティーメンバーの一人であるエリアス・キーンツだった。

 良かった、と胸を撫で下ろして息を吐くエリアスだが、まだ安心はできない。


「安心するのはまだ早い。さっさとここから出るんだ。それと他のメンバーはどうした?」

「それが……みんなギルドの連中に捕まってしまったんだ」

「……そうか」


 ガルクレスもヴァラスもレディクもギルドのメンバーに捕まってしまったらしく、エリアスだけが無事に逃げ切ったらしい。


「奴らは僕と君以外のメンバーを捕まえて安心しているみたいだった。何とか僕は運良く逃げてきられたけど、まだ町の中にはギルドの連中がウロウロしているから、向こうの気が緩んでいる間にこの町を出よう」

「ああ、そうだな!!」


 彼のいう通りだとルギーレも同意し、まずはこの町を脱出するべくエリアスと共に歩き出そうとした。

 ……が、その二人の前方から叫び声が上がる。


「ダメだ、行くな!!」

「え?」


 この場所に向かってやってきたもう一人の人物……そして二人に向かって声をかけた人物は、今しがたエリアスが捕まってしまったと言っていたはずのガルクレスだった。


「が、ガルクレス!?」

「ちっ……」


 予期せぬ人物の登場に驚きを隠せないルギーレの隣で、エリアスは苦々しく舌打ちをする。

 そんな彼に構わず、ガルクレスは妙なことをいい出した。


「着いて行ったらあんたは捕まるぞ!」

「何をいって……」


 いってるんだ、とルギーレがいい切る前にカインが再び叫んだ。


「こいつが、この世界に災厄をもたらそうとしているマリユスと繋がっているのは俺たちの方で既に調べがついているんだ!!」

「……は?」


 その言葉に驚きを隠せないルギーレは、バッとエリアスの方を振り向く。

 しかし、彼は顔色一つ変えていない落ち着きようなのでそれがまだ本当かどうなのか不明だ。


「お……おい、エリアス……」

「何いってるんだよ。今まで僕は色々情報収集をしたり、それからここにもこうして君を助けにきたじゃないか?」

「そ、そうだよな?」


 今まで自分の世話を色々と焼いてくれていたエリアスを、素直に裏切り者だとは信じられないルギーレ。

 なのでそのまま拘束されている二人を放っておき、改めて機密書物庫から続く通路を渡って図書館から出て行こうとした時だった。


「おい、そこで止まれっ!!」


 再びバタバタと足音が響いてきたかと思えば、一般利用者のいるフロアから通路を抜けて機密書物庫に飛び込んできた二つの影がルギーレの目に入った。

 それは「既に捕まった」とエリアスがいっていたはずのヴァラスとレディクではないか。


「は、え、あれ? な、何でここに……」

「話は後だ。おい、今までよくも私たちを騙してくれていたな、このスパイ男!!」


 激昂している様子のヴァラスに続いて、レディクとガルクレスの声が上がる。


「僕たちは裏切り者じゃない。裏切り者はこの男だ!!」

「そうだ。全てこの男の仲間が白状したんだ!! 最初からあんたの世話をするふりをして、行動力や戦いの実力を把握するためにスパイとして情報を全てマリユス、それから騎士団に流していたってね!!」

「ああそうだ。そして私たちは君にそのことを報告するためにここに来たんだ!!


 三人が口を揃えてエリアスとルギーレに向かって「エリアスはスパイだ」と叫ぶ。

 この突然の展開に対して唖然とするルギーレの横で、エリアスはハァーッと溜め息を吐いた。


「あーあ、せっかく三つ目の遺跡まで後もうすぐだったのにな……。でもここまで来られたのなら僕もよくやったと思うよ、自分でもね」


 いい終わると同時、ルギーレのコートの右ポケットから顔を覗かせているあのショーケースの中の破片をサッと抜き取るエリアス。


「なっ!?」


 ワンテンポ遅れて反応したルギーレがそれを取り返そうと動くが、次の瞬間ルギーレの右目にエリアスが人差し指を突っ込む。


「ぐふぉ!?」


 その突っ込む勢いこそ軽くではあるものの、突然の行動と痛みに思わず尻から床に倒れ込むルギーレ。

 エリアスの暴挙に対して他の三人も動こうとするが、彼はズボンのポケットから一つの黒い球を取り出して地面に投げ付ける。

 その瞬間、大量の白煙が彼を中心にして吹き上がり、近づこうとした三人とルギーレの視界を奪う。


「げほ、げほっ……エリアス!!」


 煙幕と共に忽然と姿を消してしまったエリアスに対し、届くことのないルギーレの叫び声だけが虚しく機密書籍庫に響いた。

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