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481.図書館の異変

「一体何が起きたんだ!?」


 カインとティレジュは、ドラソンとノレバーの冒険者コンビから連絡を受けた「黄色いコート姿の人間」が向かっているのではないかと見当をつけて自分たちもやってきた国立図書館で、何かしらの騒ぎが起こっていることに気がついた。

 そして騒ぎの場所の近くにいる司書にカインが怒声交じりの質問をすれば、こんな答えが返ってきた。


「利用者の誰かが本棚を倒したらしくて……」

「うっわ、こりゃひでえ」


 カインも思わず顔をしかめる。

 国立図書館の一角にある本棚が倒れ、その倒れた本棚がまた別の本棚を倒し……という連鎖反応で多数の利用者や帝国騎士団員たち、そして図書館の職員たちも総動員で復旧作業に当たっていた。


「何でこんなことになったんだよ?」

「それが俺たちの見えない場所で誰かが倒れたらしくて。仕事を増やしてくれるもんですよ、全く……」


 カインに質問された帝国騎士団員の一人は、呆れながらも本を回収して立て直した本棚に戻す作業を続けている。

 それをカインの横で聞いていたティレジュが、指を自分のアゴに添えてうーんと唸って考え込む素振りを見せる。


「……」

「おい、どうしたんだよティレジュ?」

「普通、本棚ってそんなに簡単に倒れるようなものとは思えないんだが」

「……そういやそうだな」


 その一言にカインもハッとした顔つきになる。

 この国立図書館に限らず、本が沢山詰め込まれている上にこうしたかなり大きな本棚が倒れるなんていうのは「特別な事情」でもない限りはそう簡単にはあり得ない話だ。

 そう考え始めると、長い付き合いの二人の視線は自然と機密書物庫に繋がるドアの方に向いていた。


「……カイン」

「ああ。怪しいな」


 立ち上がって機密書物庫の方を睨み付けるカインの目線は、まるでこれから狩りに向かう肉食猛獣を想起させる。


「誰かこの中で、あの機密書物庫に近付く怪しい人影を見た者はいないか?」


 作業をしている人員に向かって声を張り上げるカインだが、その場にいる全員は揃えて首を横に振る。


「いいや、俺は見てないぜ」

「私も見てないわよ」

「僕も見てないっすよ」


 どうやら目撃情報がない、ということはますます怪しい。


「やっぱり怪しいぜ、こりゃあ」

「カインもそう思うか?」

「ああ。本棚を倒したのは恐らく気をそらすため……それも、これだけの大がかりな作業をさせるだけの人員が必要なだけの騒ぎを起こすのに一番手っ取り早い方法なら、これぐらいしか思いつかねえだろうし」


 目撃情報がないということは、誰も機密書物庫に近付いていないということではない。

 むしろ「機密書物庫に近付く隙を作るためにわざと本棚を倒した」というのが凄く自然な考えだ。

 不信感が拭えないティレジュは、勝手な行動とはわかっているが中に入るべくカインを促す。


「あの中に入るぞ、カイン」

「そうするか。ったくよぉ、ギルドの奴から依頼がきたからこっちに来たっていうのに、何で俺たちがこうやって近くにいる時に限って……」


 ぼやきつつも機密書物庫の方へと足を進めるカインを肩越しに見て、彼を促したティレジュは不安を払うかのように、愛用のロングバトルアックスの柄を一度だけギュッと握り締める。


「ここに来る前に色々と話したと思うけど、あそこは機密書籍がギッシリ詰まっているからこそ、封印も強力なものがかかっているのは覚えているな?」


「関係者以外立ち入り禁止」の札がかかっているドアを開けて、機密書物庫へと続く通路を進みながらティレジュが自分の斜め後ろを歩くカインに問う。


「それなら聞いた。でももともと俺たちには関係ねーもん」

「他人事みたいにいうんだな」

「他人事っちゃー他人事だぜぇ? ……ここに来る前の俺たちならな」


 最後の一言だけカインの声のトーンが変わり、同時に彼の目つきが鋭いものに変わる。

 なぜなら今、彼らが真っ直ぐ進んでいる薄暗くて短い通路の床に、まだ真新しい靴跡がうっすらと見えるからだ。

 壁に備え付けのランプはあってもやや薄暗いこの通路で、ティレジュよりも視力のいいカインが肉眼ではハッキリとわからないような「それ」を見つけたのである。


「その足跡がそうだとでも?」

「そうだ。まだ真新しいから間違いねえ……この先に誰かが入り込んだ形跡だ。それも封印を破ってな」


 そう言われたティレジュは、ロングバトルアックスを構えなおして警戒態勢に入る。


「準備は大丈夫のようだな。なら……行くぞ!」

「ああ!」


 もし本棚を倒してまでここに入り込んだ人間がいるのであれば、ギルドから依頼を受けてここにやってきた身としてはこれ以上勝手な行動をさせる訳にはいかない。

 二人は早足で通路を駆け抜け、その突き当たりにあるドアを目指した。

 この通路より先に書物を持ち出すのは禁止というルールがあるし、そもそも封印がかかっているならば誰もこの先には本来いないはずだが、後ろからティレジュを追いかけるカインの耳にそのティレジュの緊張した声が届く。


「……カイン」


 呟くティレジュの視線の先には、魔術の封印で施錠されているはずなのに少しだけ開いている機密書物庫のドアがあった。

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